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No 805
Date 2008・08・13・Wed
まるもり 第4章旅立ち-第3話-まるもり 第4章旅立ち-第3話-
イノシシが目的物に向かって突進していくかのように、メグルはアパートの部屋の中へ入っていった。 「起きてぇ」 力いっぱいの声で叫ぶ。 寝ていた酔っ払い二人が、飛び起きた。 「真樹子さん」 メグルが指をさすと、真樹子は、つい先ほどまで寝ていたとは感じさせないほど大きな声で、返事をした。 「はいっ」 それは、いままで一緒に暮らしてきて初めて、と言っていいほど大きな声だった。 そして、メグルは、もう一人のほうに向き直り、叫ぶ。 「隣人」 一度はビクッとして、隣人は目を丸くする。 「真樹子さんにへんなことしたら、ただじゃ済まないんだから……ね」 格好良く決めるつもりが、最後に、「いい人」を失いたくなかったのか、自然と口調は柔らかくなり、笑顔まででる始末だった。 真樹子が台所に立っている。 しかも、ここは隣人の部屋。 メグルと真樹子は、二人揃って、招待されていた。 隣人が、メグルの粋のよさに驚き、そして、気をよくしたのだった。 「あんたたち二人は、お互いを思いやっているんだねぇ」 古く汚い部屋には似つかわしくない、アンティークの美しいティーカップに紅茶が注がれている。 「これうちにもあるわ」 懐かしい。 真樹子は、カップを持ち上げて、くるくると目の前で一周させる。 そして、くるくると周る絵柄を見て、 「うっぷ」 と、気持ち悪そうな顔をする。 まだ酔いから覚めていないようだ。 気味が悪い。 ボロボロで、地震がきたら一発でつぶれてしまうようなアパートに住んでいるくせに、調度品などは高級なものが目立つ。 そのくせ、着ているものは、粗末に見える。 人によって、お金をかける部分はそれぞれ違う。 見た目にお金をかける人、食べ物にお金をかける人、好きなものを集めるために散財する人。 メグルは、そのどれにも当てはまる。けれど、お金があるからそうできる、恵まれた環境にいるということを理解していない。 だから、みすぼらしい姿のわりに、素敵なものを持っているこの隣人を胡散臭いと思うのも無理ないことだった。 まるもり 第4章旅立ち 第4話へ続く |
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No 804
Date 2008・08・12・Tue
誕生日旅行-黒部・立山-ラスト明けて7月13日。朝、5時半。寒さで目が覚める。
部屋に暖房があったから、夜眠るときは暖房をきかせて眠りについた。 けれど、途中暑くて目が覚めた。で、暖房を消して眠ると、今度は寒くなっていたというわけ。 人間って、わがままね。 朝6時から7時半まで、食堂で朝食が食べられるので、6時過ぎに食堂へ。 普通の朝ごはん。 ![]() 今度は、食堂のほぼ中心の席だったけれど、窓の外の景色を楽しむことができた。 食事後、すぐに支度をして、外に出る。 残雪が多い中、人々は、山に登っていく。 前の日に、立山のターミナルに張り出されていた滑落事故の記事なんか読んでいると、普通のスニーカーでやってきたわたしたちには、今回山登りは不向きであると納得させられた。 ![]() 「室堂山展望台」 高山植物や立山カルデラを見たかったけれど、通常でも上りに1時間ちょっとかかる山道を、残雪多いなか行く気にはなれない。 しかも、宿からその方面を見ていると、中腹まで上っていて、身動きがとれなくなって、下山してくる人もチラホラいた。 それでは…と、室堂散策に切り替えたが、美しい火口湖、「みくりが池」は、半分以上凍っていた。 ![]() 周囲600m、水深15m。北アルプスの中で最も深い高山湖。 湖には、立山の山々が、湖面に映ってきれいと書いてあったけれど、凍っていてその姿は見えず。 それでは、それでは…と、地獄谷のほうへ行ってみると、足を踏み抜く可能性のある残雪があるために、立入禁止の札が立てられている。別ルートもあったが、こちらも残雪がすごくて、軽装備のわたしたちには不向きだ。 ![]() それに、硫黄がむんむん発生していて、ゆで卵の匂いが常に付きまとう。ちょっと苦手だった。 そして…このあたりでは、雷鳥の姿が見られるらしく、地獄谷近くにも、雷鳥の名のついた宿泊施設がある。 そのヒュッテの裏で、鳥を発見。 雷鳥とやらが、どんな姿をしているか知らないわたしたち。 というか、一応、ガイドブックで確認はしたけど、すっかりこれが雷鳥だと思い込んで、二人、大満足。 ![]() (いま見りゃ、明らかに違うってわかるんだけどね) 一生懸命写真を撮ったけど…後ろを通っていったおばちゃん、教えてくれたらよかったのに。 一言、「それ、雷鳥じゃぁないよ」って。 室堂を一周したところで、この旅は終わり。 途中、富山で有名な白海老のかき揚げが入った蕎麦を食べる。 ![]() 蒲鉾は、どこを切っても「立山」が出てくる金太郎飴方式。500円だったかな。 海老のなんともいえない風味と、いい出汁の味でけっこう美味しい。 トロリーバス→ロープウェイ→今度は乗ったよケーブルカー→また黒部ダムの脇を歩いて、ダムを眺めたり、お土産買ったり→トロリーバス。 そうしてようやく駐車場まで戻ってくると、もぅ暑い。 車の中もムンムンしているし。 これ、盆地の甲府に帰ったら、どんだけ暑いんだろう…。 見上げると、高い山。あぁ、気温だけは、あの辺に戻りたいかも。 昨日は、「寒い、寒い」と言い、暑ければそれを懐かしむ。 なんかダメね。ないものねだりで。 相方さんを家まで送り、帰り道、一人でヴァンフォーレの試合を見て帰る。 って言っても、もう後半44分だったけど。 でも、グランドが視界に入ったとたん、久野選手のゴールが決まって、嬉しかったね。 ロスタイム3分だったから、合計4分の小瀬劇場。 試合終わった〜と同時に、ダッシュで駐車場へ。 少しでも出遅れると、車の長い列に巻き込まれて、歩いて帰ったほうが早いくらい、遅くなっちゃうからね(歩いても、二十分圏内だから)。 ナベアツでいくと、どうやってもアホになる年齢だけど、まだまだ、こんなふうにバタバタと活動中。 今年も楽しく生きていこう。 どんな困難あろうとも。 例え火の中水の中。 あ、なんかしまりがない日記。 それでは、また来年の旅行をお楽しみに☆ (連れてっての催促ではありません) |
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No 803
Date 2008・08・11・Mon
まるもり 第4章旅立ち-第2話-まるもり 第4章旅立ち-第2話-
部屋に入ると、真樹子は声高らかにいびきをかいて寝ていた。 そして、それに添い寝をする人物一人。 うつぶせ気味になっているその人を、メグルは勢い良く表にひっくり返す。 「やっぱり」 その顔は、酒を呑みすぎたせいか、だいぶむくんでいて、雰囲気が違ったが、紛れもなく隣人だった。 「このおばさん、どうしてこの部屋に入れたのかしら」 すっかり自分の自宅のように、このアパートの玄関もオートロックだと思い込んでいる。だから、鍵も持たない隣人が、勝手に侵入できることが不思議で仕方なかった。 もしかして、このアパート。 メグルは急ぎ足で外に出た。そして、鍵穴をそっと覗く。 腰をかがめたまま二○四号室へ移動し、同じように鍵穴を覗く。 同じ穴のように見える。 ただそれだけで、このアパート全部の部屋が、同じ鍵で開くものだと思い込んでしまった。鍵穴など、奥のほうはどうなっているか分からないというのに。 わたしは、悪いワナにはめられている。真樹夫さんは、鬼だわ。鬼以外にありえない。どんな人が住んでいるかも分からない、誰でも自由に出入りできるアパートに追いやって、わたしたちが変な人にいじめられるのを楽しんでいるんだわ。 ホロホロと涙がこぼれ落ちる。 分かった。 きっと、柏木さんも真樹夫さんに何か言われたのよ。急に別れようなんて言うの、ありえないじゃない?本当はわたしのこと好きなくせに、真樹夫さんの命令に従ったんだわ。そう、お金をたくさんもらったのかもしれない。 会社だってそうだ。世界的に有名な真樹夫さんの言うことなら、会社の社長だって言いなりになるだろう。きっと、わたしが困ることになるように、仕向けたんだわ。 許さない。 いつの間にか、メグルの心の中は、真樹夫への憎しみでいっぱいになっていた。いま起こっているすべての悪いことは、真樹夫が仕組んだこと。 あの人は、わたしたちが、不幸になればいいと思っている。 許さない。 メグルは、ギュッと目をかたく瞑った。 そして、目の中に溜まっていた涙を一度、全部搾り出した。 「もう、泣かない」 何とかして、真樹夫のご機嫌を取ろうとしていたメグルは、もう過去の人となっていた。 まるもり 第4章旅立ち 第3話へ続く |
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No 802
Date 2008・08・08・Fri
まるもり 第4章旅立ち-第1話-まるもり 第4章旅立ち-第1話-
「何よ、あの男」 柏木に腹を立てながらも、 「海斗のほうがマシかも」 などと、他の男のことを考えるあたり、自分を好きでいてくれる人材が豊富で、心に余裕がある。 「それか、隆ちゃん。うん……。隆ちゃんは、ちょっと年が上過ぎるかな。それにお金が心配だし」 今年三十八歳を迎える隆ちゃんは、三川隆三という舞台役者だ。将来があるかどうか、四十近くになっても芽はまだ出ていない。 「はぁぁ、ろくな人がいないなぁ」 タクシーの後部座席で、ぶつぶつと不平をぶちまける。 タクシーの運転手は、メグルのつぶやきに苦笑いし、まだ暗い闇夜に向かって、大きな口を開けてあくびを繰り返した。 「うわ、最悪」 メグルは、小声でつぶやいた。 斜め後ろの座席から、運転手がカバのように大きく口を開けたのを見たことに対する小言である。 視線を落とし、自分の手元を眺めながら、ありったけの嫌そうな顔をしてみせた。 一番荘の最寄り駅まで、タクシーはスムーズだった。 運転手にお金を渡す。お釣りをガチャガチャと取り出しているのを見ると、メグルは面倒な気持ちになってくる。そこで、いつも言ってしまう一言。 「あ、お釣りけっこうです」 ニヤッとして、お礼を言うドライバー。 「お金を大切にしなさい」と、説教を始めるドライバー。 怒ったように、釣り銭を手渡してくるドライバー。 様々である。 今回のドライバーは、説教タイプだったが、 「若いキレイなお嬢さんから、余計なお金はもらえないよ」 という優しい言葉で片付けられた。 正直どちらでもよかった。もともと財布の中身を計算する趣味はない。なければ、銀行からいくらでも湧き出てくると思っている。お金がないという状況が、メグルには分からないのだ。 一番荘の目の前までタクシーをつけるのはやめた。あまりにも惨めだ。例え二度と会うことのない運転手であっても、このボロアパートに、四本メグルが住んでいるということを知られたくなかった。どうせ、タクシーの運転手は、メグルのことを知らないだろうけど……。 まるもり 第4章旅立ち 第2話へ続く |
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No 798
Date 2008・08・06・Wed
まるもり 第3章極貧-第12話-まるもり 第3章極貧-第12話-
「雪夜さん、大丈夫?」 部屋の奥のほうから声がして、メグルはその声を聴いた瞬間、体を震わせた。 聞いたことのある声。とてもよく知ってる声。でも、こんなときに、それが誰なのか思い出せない。 その姿を見る前に、自分で思い出しておきたかった。 そうしなければ、その人を目の当たりにした瞬間、心臓が縮みそうなほど驚く気がした。 「雪の日の夜に生まれたから、雪夜。単純な名前だろ。あんまり好きじゃないんだ」 好きではない名前。彼女と言う立場であったメグルでさえ、呼ぶのを許されなかった名前。 「大丈夫だよ」 柏木が振り返って、その見えない声の主に優しく話しかける。 「メグルだから、大丈夫」 「メグル?」 その声と同時に、声の主は、ドタバタと駆けてきた。 「二人って、何?付き合ってるの?いつから?二股だったの?」 遅れて玄関にやってきた東湖を見た瞬間、メグルは、柏木の首根っこを捕まえていた。 これって、馬鹿にしてない?わたしと付き合っていたのに、同期で一番仲の良かった東湖とも関係があったなんて。それに、東湖だって、何も言ってくれなかった。 自分が、何人もの男を手玉にとっていることなど、まるでなんでもないかのように。 そして、自分はしても、他の人はしてはいけないかのように。メグルの考え方は、自己中心的過ぎている。でも、本人はそんなことを思いもしないし、気付きもしない。 柏木は首を横に振った。 「付き合ってないよ」 メグルは、自分の感情を抑えることができなくなっていた。 「嘘つかないでよ。だって、そういうことでしょ?東湖と付き合ってるから、わたしに別れようって言ったんでしょ?二人して、わたしのこと笑ってたんでしょ?」 涙が、どこからともなくあふれ出てくる。 「違うよ、メグル。俺たちは本当に付き合ってない。今度のコレクションの打ち合わせをしていただけだ」 柏木は、一歩下がったところに立ちすくんでいる東湖に、小声で、 「ごめん、部屋に戻ってて」 と言ってから、またメグルに向き直った。 「俺は、お前とものすごくズレを感じてた」 柏木は、強い口調で言い放った。 「メグルは確かにお金持ちかもしれない。でもそれは真樹夫さんが頑張っているからお金持ちであって、メグルが頑張って手にしているわけじゃない」 そして、一呼吸置いて、さらに続けた。 「俺は、自分で頑張って、成功することを夢見て努力して、今の生活を築いているんだ。努力しないで、誰かにしがみつくメグルを見てると、だんだん腹が立ってね」 柏木の手が、静かに伸びてきて、メグルの頭にのる。 摩擦が起きて、髪の毛が浮くような感覚に捉われる。 「人に頼らずに頑張ってごらん。俺は、人間としても、女性としても、そういう人に魅力を感じるよ」 柏木は、最後に少しだけ笑顔を見せてくれた。 「そういう人間になったら、俺、メグルのことまた好きになると思う」 柏木の言うことが、メグルには理解できなかった。 「金持ちをひがんでいるんだわ。あんな心の狭いオトコ、こっちからお断り」 タクシーを捕まえて、一番荘への道のりを、運転手に説明する。 後部シートに腰を落ち着けると、気分がゆったりとする。 メグルは目を瞑った。 深夜料金も加算されて、往復のタクシー代は、一万円弱かかった。残りの所持金二万円。 これが緊急事態だといつ気付くかは、誰にも分からない。 まるもり 第4章旅立ち 第1話へ続く |
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No 801
Date 2008・08・05・Tue
ありがとう先日、とても嬉しいことがありました。
大学時代の友人が、わたしが本を出版したことを人づてに知り、ネットでわたしを探してくれたのです。 そして、このブログにたどり着いたようで、10年ぶりにお話しする機会を持つことができました。 お話…といっても、ネット上。 彼女は、いま、結婚して海を渡り、英国に在住とのこと。 大学時代の友人たちの数人は、卒業後海外で就職をしたり、留学をして、そのまま居住の地を海の向こうに移しています。 また、海外青年協力隊の一員として、連絡を取ることすら困難な場所に行き、一時的に日本に帰ってきては、また数年支援に出向くなんてことをしている友人もいます。 そうすると、けっこう連絡が遠ざかるものですが、ネットって便利ですよね。 どこにいても、つながっているような気がします。すぐに連絡を取り合えるし。 (唯一、海外青年協力隊として活動している友人とは、3年ほど前から連絡が途絶えていますが^^;) もしも、友人が探してくれなかったら、多分、ときどき大学時代の写真なんかをみて、 「どうしているんだろうなぁ?」 と、思うだけだったでしょう。 友達が探してくれなかったら… 友達に、わたしが本を出版したことを誰も教えなかったら… わたしが本を出版しなかったら… こう考えると、さかのぼって、これまでの出来事に感謝したい気持ちでいっぱいです。 sakura、探してくれてありがとう。 (彼女の、英国での生活のブログはこちら→sakura's diary 優しさ溢れる素敵なブログです) |















