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まるもり 第5章共存-第6話-

まるもり 第5章共存-第6話-

「なつみ」
その店の看板には、そう書かれていた。
「あたしの店だよ」
大家は、振り向きもせずそう言って、鍵を開けて中に入る。
後ろから、
「大家さんの名前ですか?」
と聞いてみたが、返ってきたのは、
「関係ないだろ?店では、ママだ」
冷たい返事だった。
それでもメグルは、彼女の名前なのだと思った。そして、その風貌には似つかわしくないと、一人ほくそ笑んでいた。

 店内は、外観とは違って、小奇麗だった。
ただ、酒と煙草の慣れない匂いは気になる。
そのことを大家に言うと、彼女は慣れているからか、何の匂いもしないと笑った。
そして、
「大家じゃないよ、ママだ」
と、念を押す。
「まったく、あの子が使えなくなったからねぇ」
ママは、ため息をつく。
そう広くない店内は、カウンターに席が五つと、テーブルにソファの席が二つあるだけだ。
ソファ席の脇を通り過ぎ、ママは奥のドアを開ける。
「ほら、トイレ掃除だよ」
顎をグッと持ち上げて、来るように言われる。

 トイレも思ったより清潔だった。
フロアよりトイレのほうが空気が良いような気すらする。
「そこが終わったら、テーブルと椅子を拭くんだ」
大家は、メグルの近くを離れていった。
トイレは和式一つだけだが、メグルは、トイレの中で一人たたずんでいた。
何をどう掃除したらいいのやらわからないのだ。
トイレ掃除などしたことがない。
雑巾で拭くのだろうか。
いやいや、便器に触るなど気持ち悪い。
迷っていると、遠くから大家の、いや、ママの怒声が飛んでくる。
「早くしてくれよ」
はいはい。
メグルは頭の中でつぶやいて、とりあえず一度水を流すためにレバーを動かす。
ジャー。
水が勢いよく流れた。
掃除をしている振り。これでいい。
メグルはもう一度水を流した。
そして、怒られた。
「水は一回だよ。もったいない」
ママの怒声は延々と続くのである。

まるもり 第5章共存 第7話へ続く


テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/09/29(月) 12:00:28| 笑@会社 | トラックバック:0
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