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まるもり 第5章共存-第5話-

まるもり 第5章共存-第5話-

 メグルは、星花と別れてから、すぐに大家の家に行き、スーツにアイロンをかけた。
そんなことをするのは初めてで、何度も横から口を挟まれた。
「あんた、だらしがないねぇ」
最後のシワを伸ばしたときに、大家は呆れてため息をついた。
「真樹子の子供だよ」
まるで、何十年も真樹子のことを知っているかのような口ぶりだ。
メグルは、大家がトイレに入った隙に、急いで服を着替えた。シワがない服は、やはり気持ちがすっきりして背筋が伸びる。
クリーニング屋がしてくれた仕事ではなく、自分でやったことなので、なおさら気持ちがシャキッとした。
トイレから出てきた大家は、メグルを見て、ニヤリと笑う。
「いいね。行くよ」

 連れて行かれた場所は、歩いて一分もかからなかった。
アパートをグルッと半周したところで、大家は足を止める。
急に歩みを止めたものだから、メグルは大家の背中にぶつかりそうになった。
そこは、アパートの裏手だった。
いつも曇りガラスから透けて見える、怪しい紫やピンクのネオンがついている方向だ。
メグルは、アパートを見た。
端から部屋を数えていく。
自分の住む二○三号室。
何か黒いものが、ゆらゆらと揺れているのが見て取れる。
真樹子だろう。様子を伺っているのだろうか。
メグルの視線に気づき、大家もその方向へ目をやった。
「ちぇっ、真樹子。戻ってきたんだね」
軽く舌打ちをしてから、メグルに向き直り、
「まぁ、いいや。今日はあんたに働いてもらうから」
と、嬉しそうな顔をしている。

 アパートの裏手のその場所は、小汚い店が連なっていた。
看板は古く、すす汚れ、陰湿な空気が漂っている。
生ゴミでもあるのか、吐き気すら覚える。
狭い路上では、鳩がアスファルトの隙間を狙って、何かをついばんでいる。
メグルは、グッと鼻から息を吸うのを止めた。
口を小さく開け、そこで呼吸をする。異臭に耐えられなくなっていた。
「どうしたんだい、口開けて。お馬鹿に見えるよ」
大家に小言を言われても、これは耐えられない。
大家の手が、メグルの顔に忍び寄る。
唇の上下を手でくっつけられると、メグルは息苦しくなって、プハーと大家に息を吹きかけた。
「嫌だよ、この子は」
大家は、本当に嫌そうな顔をして、また歩いて行く。
「早くしな」
連なる店の端から三つ目の店の前で、足を止めている。
大きな声で指示されて、メグルはそこまで小走りになった。

まるもり 第5章共存 第6話へ続く


テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/09/26(金) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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