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まるもり 第5章共存-第4話-

まるもり 第5章共存-第4話-

 「あんなヤツなんだけど、感謝はしてる」
少女は、名前を星花(せいか)と名乗った。
星の花。よく、星屑とは言うけれど、あれを「クズ」などと呼ぶのは良くない。
そうだ、星の花だ。
そう言って、彼女の母である大家は、彼女の名前をつけたという。
ロマンティックな話だ。いまの大家からは想像がつかない。

 メグルは、いまだに通路に腰を下ろすことができずに、コンビニ前にたむろする若者たちのように腰を浮かしてしゃがんでいた。
「あいつは、オヤジと離婚してから、おかしくなっちまった。そして、あたしたちの生活も一変した。あたしも、変わった」
一方星花は、べったりと地べたに座り、今度は赤ん坊を胸の前で抱いて、自分は壁に寄りかかった。
「あたしたちに残されたのは、ババァのばあちゃんが残してくれたこのアパートだけさ。これでもあたし、お嬢様だったんだよ」
星花の胸の中で、赤ん坊が目を覚まし、星花はその薄い髪の毛をサラサラと撫でた。
口をもごもごと動かし、何かを言いたそうな顔を、必死に覗き込む。
その様子は、母親らしく見えた。

 お嬢様とは程遠いその風貌を、メグルは横から眺める。
髪の毛、着ている服、話す言葉。どれを取っても、ちょっと悪い子に見える。
「信じられないだろ」
星花は笑った。
口の端だけをゆっくり持ち上げて、
「ふふ」
と言ったときには、育ちの良さを感じた。
「こんなところじゃなんだから、家に入ろう」
メグルが誘うと、星花は、首を横に振った。
「隣に話が筒抜けさ。あんたが家に来ればいい」
メグルは、何故かこの少女と話したいという衝動に駆られていた。
大家との約束の時間が迫っていることが悔やまれる。
というか、約束したことさえ悔やまれる。

 「あ、明日でもいいかな?出掛ける約束があったのを忘れてた」
メグルは、いつもの誰をもホッとさせる笑顔を作った。
「ちぇっ、なんだよ。あんたが誘ったくせに」
少女は軽く舌打ちをしたが、本気で怒っているようではなかった。
赤ん坊を片手で抱いたまま、スクッと立ち上がり、お尻の汚れを払う。
そして、
「明日いつでもおいでよ。あたしは、ババァの下の部屋さ」
そう言って、ゆっくりと廊下を歩いていった。

まるもり 第5章共存 第5話へ続く


テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/09/23(火) 09:00:33| 笑@会社 | トラックバック:0
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