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まるもり 第4章旅立ち-第12話-

まるもり 第4章旅立ち-第12話-

 大家が、四本家の玄関で、突然発狂し始める。
「あぁぁあぁ」
首をぶるぶると横に振っているさまは、漫画の中では、感電してドクロが見えている状態に良く似ていた。
「どいつもこいつも、だらしがない」
そう言うと、まずは後ろを振り向き、金髪の少女に声をかけた。
「あんたはね、しっかり子供を育てなさい。いつまであたしの世話になっているのさ」
肩をドンと突くと、少女はよろけて手すりにぶつかった。茶色く錆びたそれは、少しぶつかっただけで簡単に壊れそうなほど脆く見えた。
「出てってやるよ」
少女は、大家に叩かれた肩に手をやり、顔を歪めて去っていく。

 その後姿は、部屋からは見ることはできなかった。大家は、ドアを開けたまま玄関に立ち尽くし、少女が立ち去ったほうを、しばらくの間眺めていた。
その目は、夕陽を浴びて、キラキラと光って見えた。
メグルは、寂しい気持ちを抱いた。どうしてかと問われれば、うまく表現することはできない。
大家は、瞬きをしたときに、一粒大きな涙を流した。
顔を背けて、ドアノブにかけていた手を離す。その涙を拭ったのだろう。
見てはいけないものを見てしまったかのように、メグルは黙ってうつむいた。
真樹子は、相変わらず、ドアから見えない位置に隠れている。

 二人の間に、何があるのだろうか。
寂しげな大家に同情を抱いた瞬間、
「そうだ、真樹子いるかい?」
大家は、大声を上げて、こちらを向いた。先ほどまで涙を流していたのが嘘のような、怖い目をしていた。反射的に、首を横に振る。
「あいつ、逃げたのかい」
チッと舌打ちをする。
先ほど、真樹子を追いかけてこの部屋に来たのを忘れたのだろうか。
真樹子がこの部屋にいないわけがない。でも、それが分からないのだ。

 「まったく、あんたの母さんは、何にもできないみたいだね」
大家は、フンと鼻を鳴らしてから続ける。
「アイロンを持ってるかって聞くから、貸してやろうかと思ったら、真樹子、かけてって言ったんだよ。あんた、どこの誰が、隣人にアイロンかけをお願いするのさ」
大家は、もっともなことを言っている。それは、メグルにもわかっている。
だいたい、真樹子はアイロンをかけたことなどない。服はいつだって、クリーニング屋任せだ。
「焼きいれてやらなきゃね」
焼きの意味が分からず、メグルは、トボケた顔をして首を横に傾ける。
「あんたもね。六時だからね。根性叩きなおしてやる」
「いえ、わたしは」
メグルが反論するのを、大家が、鬼の形相で睨む。
「あんた、来なかったら、ここ出て行ってもらうよ」

大家は、メグルの部屋のドアをコツコツと二回ノックした。
そのときの顔は、悪魔の遣いのように、恐ろしく、そして不気味なものだった。
「行きますとも。アイロンもかけますとも。是非とも貸してくださいまし」
メグルは、自分のスーツケースから、やはりしわくちゃになった服を取り出すと、大家に満面の笑みを見せた。

まるもり 第5章共存 第1話へ続く


テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/09/11(木) 12:00:38| 笑@会社 | トラックバック:0
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