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No  624

女園秘書室-第84話-


なぜ樹里は回りくどい方法で桃子に助けを求めたのか。
なぞだった樹里の行動が一つ一つつながっていきます。
樹里はスッキリ、桃子は混乱の第84話-


第84話

「分かっていると思いますが、わたしは友達と呼べる友達がいませんでした。だから、誰かに
気を許すとか、相談を持ちかけるということは出来なかったのです。でも、わたしは限界でした」
樹里は深く、それこそ部屋中を陰の気で覆ってしまうほど大きな黒いため息をついた。
「桃子さんのことは知っていました。いつもエントランスにいて、元気に声をかけてくださって。
あのエレベーターでの大捕り物のとき、わたしも同じエレベーターに乗っていました。勇気が
あって、真っ直ぐな方だと感じました。そんな方が、秘書室にいらっしゃると聞いて、わたしは
チャンスだと思ったのです」
あのときから全てが変わった。何もかもが新しくなった。生活。服装、言葉遣い。
それほど遠い昔のことではないのに、懐かしさに桃子は目を細めた。
そうか、こいつ、あのエレベーターの中にいたんだな。
当時の様子を頭に再現してみる。
「あぁ」
包丁を振りかざした男の肩越しに、隙のない鋭い目つきをした女が、確かに一人いたことを桃子は
思い出していた。

それから、二人はベッドの上から降りて、ベランダに出た。
ちょうど今、桃子が一人で立っている位置に、つい先ほどまで二人で立っていたのだ。
「わたしは救われたかった。あの通り、秘書室では私語は厳禁です。そんな状況の中、どうしたら
分かってもらえるか、そればかり考えていました」
磨かれた手すりは月明かりに照らされ、光沢が増して見える。このような豪華絢爛な暮らしとは
無縁な桃子は、手すりに触れることすらためらってしまう。
「あの一件があった日、社長は桃子さんのことをいたく気に入って、すぐ秘書室に迎えるよう、
阿東さんに言いました。桃子さんの病室を訪ねて帰ってきた阿東さんは、桃子さんが、あまり
パソコンが使えないようだと言いました」
それを聞いて、桃子はまるでテレビのお笑い芸人がわざわざ大げさに転ぶような仕草をして、
足首を捻ってしまった。
「アハハハ。あたしは阿東には、使えるって断言したのに、あいつ、見破っていたか」
恥ずかしさを隠すように、頭をかきながら豪快に笑う。
樹里は、口元に手を当て、くすりと小さく笑った。緩やかな風が吹いて、樹里の女らしい香りが、
漂ってくる。朝にまとっただろうその香水は、昼、夕方と時間を追うごとに、滑らかな甘い香りに
変化していった。ここが自分の住む同じ日本と思えない、遠い世界に飛んできたような雰囲気と
空気に満ちていた。
樹里は、微笑みを持続させながら、ベランダの手すりに手をかける。
「メールはどこで監視されているか分かりませんから、人に知られたくない内容を送るのはご法度
です。なので、他に考えられる手段は、あの変換しかなかったのです。わたしは隣の席でしたので、
桃子さんの使うパソコンの管理を任されました。なので、桃子さんが来る前にあのような登録が
できたのです」
話を聞きながら、桃子も樹里と同じように手すりに手をかけた。
つるつるした触り心地が気持ちよく、桃子は頬までこすりつけていた。
「んでも、自分で入力しておいて、福井イコール才女はないだろ。それに、あたしのことを筋肉
バカって」
それは、嫌味でもなんでもなく、さらっと口から出た言葉だった。
怒っているわけではない。桃子は、ただ事実を知りたかったのだ。どうして、そのような変換を
登録していたかを。

「誰が変換を登録したかということは、気付かれたくなかったのかもしれません。ただ、この秘
書室で何かが起こっているのだということは気付いて欲しかった。阿東さんは不倫している。
それは、わたしとということではなく、有砂さんとという意味で入力しました。
福井=才女の変換は……」
樹里はいったん言葉を詰まらせた。
「わたしがやったと思われる可能性と、有砂さんがやったと思われる可能性を両方残しておき
たかったのです。普通、自分のことを才女などと変換しませんから、有砂さんの行動に自然と
目を向けるのではないかと思ったわけです。もし、わたしが入力したと桃子さんが思って、わたしを
勘ぐるようであれば、わたしは、桃子さんに全貌が分かるように行動しようと思っていました」
奥深く、迷路へ迷い込みそうな話になってきた。
これまであった数々の出来事を一から思い出しながら、桃子は頭を左右に振る。
そうすれば、混乱している状況が一瞬でまとまるかのように、何度も繰り返した。
目を固くギュッと瞑る。有砂と阿東の顔が、黒い視界の先に見え隠れする。
目を開けた瞬間、やっぱりここは日本なのだ。せちがらい、狭い日本なのだと実感していた。

-第85話へ続く-
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No.19 Ĺ潨¡???Ф???
ФĹ潨¡???Ф??? …
2007-11-13 Tue 18:29 ?η?ήХ???

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