壮絶な深夜の出来事に、桃子絶句。
心が痛くて、寂しくて、どうすることもできない樹里。
それも多分少しずつ薄れていくのです。
みんな味方!きっとお父さんだって、分かってくれるはず。
とりあえず、苦しかった過去はここまでです。
第71話嫌な光景が頭をよぎる。
何者かが樹里に襲い掛かっている姿。
このような大きな家に押し入ろうという輩は少なくないだろう。いくらセキュリティ設備を整えて
いても、所詮家の中にはか細い女性一人だ。近所の人ならほとんどがそのことを知っているし、
用心深く下調べをしている者もいるかもしれなかった。
ただの盗みならまだいい。
しかし、樹里自体を狙うものもいるかもしれなかった。母親が男と蒸発してしまってからというもの、
樹里が学生だった頃には、世間で不良と呼ばれるような風貌の男子学生がたびたびこの家の
前に集まってきた。何をするでもなく、樹里の帰りを待って、性的暴行におよぼうと企んでいた。
一度過ちがあってから、亜樹はそれこそ毎日樹里の高校へ出向き、彼女に気付かれないように、
自宅までの道のりを尾行した。そして、少しでも変な者が近づくと、容赦なく掴みかかった。
どんな奴が侵入してきていてもおかしくない。
亜樹は、掃除機の柄を構えて、樹里の部屋へ近づいた。
ドアは開け放たれている。部屋の中の窓も開いているのだろう。廊下まで風が吹き付ける。
中世のヨーロッパをモチーフとした家の造り。風がなびくたびに、ドアがキュウキュウ鳴いて、
亜樹をより一層震え上がらせた。
「あぁぁぁー」
大声を張り上げ過ぎて疲れきったのか、かすれたような声が響き渡る。それは、風が一瞬だけ
おさまった瞬間に発せられ、轟いた。
迷っている時間はなかった。
亜樹は、全速力で樹里の部屋へ駆け込む。
誰もいなかった。
さわさわとカーテンが揺れている。
落ちたのか?
亜樹はベランダに飛び出そうとして、風でふんわりと持ち上がったカーテン越しに、樹里を見
つけた。
膝を抱えて座り込み、ぐったりと窓に寄りかかっている。目だけはしっかりと見開かれ、空を見上げていた。
「ふっ。くっくっ」
何がおかしいのか、笑いをかみしめている。まるで気でもふれたかのようだった。
誰かに襲われたわけではない。それが分かれば、とりあえずは良かった。
ただ、樹里のあの異様な叫びは、耳に残り離れない。
なぜあんな叫び声をあげたのか。樹里の心の中は見えなかった。
「彼女の心は完全に崩壊している。わたしはそう感じました」
桃子は、亜樹の話に逐一頷いてはため息をついていた。
何がおかしいのか、樹里はその後も笑い続けたという。
そして亜樹は何も声をかけずに、その場に数分間立ち尽くしていた。
「完全に」
桃子は頭を掻き毟りながら、
「狂っているな、あいつは」
そうは言っても、別に嫌がっているわけではない。狂っている樹里に対して何か思ったわけで
はなく、そこまで狂わせてしまった何か、或いは誰かに嫌悪感を示していた。
「育った環境が悪かった」
「親の育て方に問題があった」
子供が事件を起こすと、こぞってそのように取り上げられる。
そのたびに、桃子は、
「そんなことないさ。その子供がおかしいんだ」
そう思ってきた。
でも、それは違うかもしれない。
実際にこうして寂しい環境で育った樹里を見ていると、多感な時期の子供の環境がいかに大事か
が分かるような気がした。
あたしだって、悲しみや苦しみ、痛みだって知ってる。
だけど、樹里が感じてきたそれらの半分も満たないだろうな。
能天気な両親の元で生まれ育ち、天真爛漫、やんちゃな少女時代を楽しく過ごしてきた桃子には、
その辛さが分からなかった。
夜中に一人絶叫し続けなければならないほどの苦しみ。
自分に向けられたであろう、嘲笑。
樹里はちゃんと眠れているのだろうか。
「亜樹さん。いろいろ話してくれてありがとう。じゃ、おやじさんの伝言は伝えたからね。頼むよ。
とびっきり美味いものをね」
まだ、ペッタリと床に座り込んだ亜樹に言うと、桃子は樹里の寝ているであろうリビングへ向かった。
-第72話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2007/10/13(土) 08:00:00|
笑@会社
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| コメント:4
壮絶な過去ですねぇ。でも「苦しかった過去はここまでです」なんですよね。ここから、どんな展開が待ち受けているのでしょうか? いよいよ、なのでしょうか…?
- 2007/10/14(日) 03:02:35 |
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- 妃垣俊吾 #-
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そうです!いよいよ樹里にも明るい光を灯そうと!!
いよいよ、THE対決?!女の戦いは怖いですから^^;
自ブログupばかりで、なかなか読みにいけなくてすみません><
コメントありがとございます♪
- 2007/10/14(日) 22:38:49 |
- URL |
- ユミ #-
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ほんと、つらい〜(TT)ぞわぞわしちゃいました!
しかし、身近に亜樹ちゃん、ほんと、いい子(TT)
守ってくれていたのね!!
そう想えば想うほど、お父さんの無責任さが腹立たしい(><)
お母さんも〜!!
桃子、どうするのか!
樹里ちゃんが心からの笑顔を手に入れることができるのか!
強大な敵、会社!!有砂!どきどきしながら、続きを待ってます!
- 2007/10/15(月) 08:37:58 |
- URL |
- らんらら #-
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樹里の周りは、いまいい人揃いでしょ^^
いい人ばっかりで、面白くないから、そろそろブラッキーな人物を登場
させなきゃ(笑)ブラッキー=有砂…。
ぞくぞくする樹里の過去。もう過去だけにとどめておこうと思います!
お父さんのこと許せるようになったら、また一歩前に進めるでしょう。
お母さんのことは許せないと思うケド…。
きっと心から笑顔を手に入れられるよう、頑張っちゃいます♪
- 2007/10/15(月) 22:36:58 |
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- ユミ #-
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