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女園秘書室-第63話-


樹里の悲しい過去話はまだ続きます。
そして、とうとう核心に触れる、有砂との関係。
この2人。どうも本当に仲が良いとは思えなかった桃子。
やはり何かがありそうです。
その話を聞いて、冷静ではいられない?!
飛び出す桃子、第63話です。


第63話

何を思っているのか、樹里の目は冷めていた。
むかし、自分を奈落の底に突き落とした数々の人物を思い浮かべているのか、それとも
母親を思い起こしているのか。桃子には検討がつかなかった。
お気楽な両親の元に生まれ、勉強などそっちのけで男勝りに外で遊び、いつも笑いが
絶えない生活をしてきた桃子にとって、樹里の冷え切った生活は、理解の域を超えていた。
自分が辿ってこなかった道のりを、理解するというのは難しいものだ。そして、
それを完璧に理解するなど、誰にもできないことだ。
同じような境遇を体験していても同じことである。境遇が似ていても、かかわってくる
人物や精神的状況など、何もかもが一緒であることはないからだ。

高校生活でも、樹里の家庭を知る人は多く、樹里は孤立していたようだった。
そして、
「大学生になって、有砂さんと出会いました」
高校生活は、敢えて深くは語らなかった。子供よりいろいろな知識が増えている割に、
大人にもなれない年頃のこのころは、普通に生活していても、傷ついたり、傷つけ
られたりが多い時期だ。樹里の心情を察すると、理子も桃子も黙っていることが一番
だった。一年間高校に通った後、樹里は単身アメリカの高校へ留学したとのことだった。

大学の入学式で隣り合わせたのが、有砂だった。
「おい、有砂って、当たり前のように話に出てくるけど、誰だい?」
理子が口を挟むので、桃子は、面白おかしく、
「有砂、イコール五反田さん、イコール鬼だよ」
と言った。
「あぁ、鬼か」
理子がつぶやく。

有砂に対する第一印象は目の澄んだきれいな人。どことなく冷たいイメージではあるが、
誠実そうな人。子供じみたことも言わず、真っ直ぐな人。
有砂は、想像通り、何事も意見をはっきりという人だった。性格は、冷たすぎるほどで、
情で心が動かされることは一切なかった。自分の始めたことを妥協しないし、他人の
妥協も許さなかった。樹里は、そんな有砂に従うような形で、淡々とついてきた。
「人を信用するな。人は必ず裏切るんだって。有砂さんに面と言われた言葉です。
でも、有砂さんのことは信じていた。あるときまでは……」
樹里は、言葉を詰まらせた。

このしんみりとした空気に似合わず、襖の向こう側の通路から鼻歌が聞こえてくる。
そして、襖が開いた。
威勢のいい若い店員は、空気を読むということが分からないのか、
「あぁ…そんなの熱いうちに食べなきゃ美味しくないですよ」
まだ山積みになっている天ぷらを指差す。
「ちょっとジャマ」
理子が敷いていた座布団を投げようとすると、店員は目を丸くして逃げていく。
樹里は、肩を揺らして笑っていた。
「もう、やめよう。これからのことを考えよう」
樹里の笑顔を見て、そう言った桃子と、
「いいや。全部吐き出せ」
話を促す理子。
どちらも、自分のことを考えてくれているのだと、樹里は二人に感謝の気持ちを
持っていた。
そして、
「桃子さん、すみません。話してすっきりさせてください」
正座をして、桃子に頭を下げてきた。
「分かったよ。分かったから、あたしになんか頭を下げないでくれ」
桃子は、樹里の頭を撫でた。

正直なところ、桃子はこの先の樹里の話を聞きたくなかった。
有砂に、何らかの形で裏切られただろう樹里の話を。
聞いてしまえば、来週平然と有砂と一緒に仕事ができるかどうかわからなかったからだ。
桃子は、自分がそんなに割り切れる性格ではないことをよく分かっていた。
話の内容如何では、あの高飛車な態度を取った瞬間に、殴りかかってしまいそうだ。
そんな桃子の気持ちを察してか、樹里は、もう一度深々と頭を下げた。

-第64話へ続く-

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2007/09/27(木) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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