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No 572
Date 2007・09・07・Fri
女園秘書室-第53話-桃子&樹里がタッグを組む?! 意外なコンビ誕生になりそうです。 樹里は未知の世界に踏み出す勇気を出せるのか? 涙と笑顔の第53話でございます♪ 第53話 しばらく動かない樹里を、桃子は静かに眺めていた。 いつ溢れてもおかしくないくらいに涙を溜めた目。 瞬きをした瞬間、それは滴となって掛け布団の上に落ちた。 「わたし、誰も信じていませんでした。両親さえしんじられないんですもの。他人 など信じられるはずもなかったのです」 桃子は、樹里の手を取って、そっと握り締めた。 妙に心臓が高鳴る。 長い間、いろいろなことで傷ついた樹里を、うまく慰めることができるのかどうか、 心配だった。 軽く背中を叩くと、樹里は「痛い」と笑いながら、涙を拭った。 樹里が笑ったので、桃子は嬉しくなった。 一般的な慰め方とは違うと分かっていた。けれども、桃子はもっと樹里の笑顔を 見たくなっていて、どうしたらそうなるかを考え始めていた。 「幼いころからそういう性格でした。母が出て行ってからは、その傾向がますます 強くなって。こんなことを桃子さんに話すのは、どうかと思うのですが……」 桃子と樹里は手をつないだままだった。 小さいころは、母や友達と手をつなぐと暖かい気持ちでいっぱいになった。 人は、いつから手をつながなくなるのだろう。 桃子は遠い記憶を呼び返してみた。 辛かったとき、悔しかったとき、悲しかったとき。 桃子は、いろいろな人の手で、癒されてきた。 いつの頃からか、男勝りに強くなって、そんな感情も薄れきて、やがては消えて なくなった。 こうして樹里の手を握り締めていると、この数日間の秘書室での嫌な記憶も、暖かく 心の奥深くに閉じ込めることができるような気がしていた。 結局は、こうすることで自分も癒されたかったのだろうか。 そんな弱気になった自分に照れくさくなり、桃子が離そうとした手を、樹里が強く 握り締めてきたので、そのままにしておいた。 「大学へ入学して、会社へ就職をして、環境が変わるたびに、何度自分を変えようと 思ったことか」 樹里は、下を向いて何度も瞬きをした。 それがわざとらしいくらいに、スローモーションに見えて、背筋が寒くなる。 これが演技だとしたら、どうしよう。 一瞬、そんな感覚にとらわれた。 つないだ手を、さりげなくそっと離す。 樹里は、その手で涙を拭った。 「有砂さんと会って、違う意味で変わったような気がしました。彼女はとても冷静な 方で、何があっても取り乱したりしません。『人は裏切るのが当たり前。だから、 誰とでも深入りしない関係を作るべきだ』彼女は、そんなことを言っていました。 それからのわたしは、長い間すべての人間に対して心を閉ざしてきました」 「でも、あり…いや、五反田さんとは友達だろ?」 桃子が男のような言葉を使ったので、樹里は涙を拭いながら、また笑顔になった。 「わたしには、友達はいません」 樹里は自嘲気味に言った。 「旅行へ行ったり、カフェでくだらない話を何時間も話せるような友達。ずっと 憧れていました。でも、自分で心を閉ざしているんですもの。仕方ないですよね」 彼氏は? そう聞こうとして、桃子は口をつぐんだ。 「阿東だ」と言われても困るし、これほど人を信用できないなら、彼氏などいるはず もないと思ったからだった。 外見は、モデルにでもなれそうなくらい、美人でいるのに。 性格も、本当はとても良いだろうに。 両親のことがトラウマとなって、人間不信に陥って、有砂にとどめを刺されていて 友達も彼氏もいないということが、とてももったいないことだと思った。 「樹里さん」 桃子は、突拍子もないことを思いついた。 「明日、あたしの友達たちと一緒に飲まないかい?」 樹里は、狐に摘まれたように、目を大きく見開いて桃子を見つめていた。 -第54話へ続く- |
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