主人公、柚木朝子、29歳。
恋仲の関係は終わったけれど、同期としては
終わらない幸希との関係。
新たに知った幸希の過去。
幸希と若月さんの過去は清算できる?
女史は、有田課長への恋を全うする?
湯河原は、若月さんを諦める?
わたしは、何のわだかまりもなく旅立てる?
第69話夜9時を過ぎた頃、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、やつれた顔をした幸希が立っていた。
わたしは、黙って招き入れる。
「ご飯、食べる?」
幸希が、ぐったりとした様子で座り込んでから、聞いた。
「あるなら、もらえるかな」
野菜のスープを温める。ご飯は炊飯器から出してしまって、もう
冷めつつあった。
適当に野菜を刻み、チャーハンを作る。
それまでわたしたちは、一言も言葉を交わさなかった。
幸希は、壁に寄りかかって、目を閉じている。
残り物のおかずをレンジで温めなおして、テーブルに並べた。
「今回は、本当に悪かった。ごめん」
わたしが座ると、彼はわたしの目をまっすぐ見て言った。
彼の目は、赤く充血していた。泣いたのだろうか。
「とにかく、先に食べなよ。冷めちゃうし」
5分と経たないうちに、テーブルに出したものすべてがきれいにな
くなった。
お皿を重ねて片付けようとすると、幸希がそれを制した。
「俺があとでやるから」
肩膝を立てて立ち上がろうとしたわたしは、座りなおす。
話を聞くのが、怖かった。目の前にいる人は、もう自分とは今後ま
じわることのない人であるはずなのに。まだ心のどこかに、幸希と
やり直したいという気持ちが残っているのだろうか。そんなはずは
ない。自分からきちんとケリをつけた。幸希もそれを納得した。
そして、もう終わったこと。
話を聞くのが怖い理由。
それは、きっと、幸希と付き合っている間にも、どこかで誰かが彼
のことで悩んでいた、苦しんでいたことを知るのが怖いのだと思う。
両手を握り締めて、幸希の言葉を待つ。
「違った」
最初にそれだけ言うと、幸希は大きなため息をついた。
「俺の子供じゃなかった」
わたしの心の中の荒波が、静まっていく。
まだ陽が高く上っている頃出て行った2人は、このマンションの裏手
にある公園で今までずっと話をしていたのだという。
幸希は、ゆっくりと静かに話し始めた。
まず、若月さんは、先手を打つように、わたしや大鳥女史が同席し
たことをなじったのだという。「プライバシーの侵害だ」と言うあ
たり、海外在住経験者の発言だなぁと思う。
そして、「絶対にDNA鑑定は受けない」と言い続けた彼女。「受けな
いなら認めない」の一点張りの幸希。
「俺の子供じゃないんだろ?」
本当に俺の子供なら、DNA鑑定を受けることくらい、なんでもないこ
とだと思った幸希が、ため息交じりにポツンとつぶやくと、若月さ
んは突然泣き出したのだという。
何も言わずに、1時間ほど泣き続けて、涙も枯れ果てた頃、「ゴメン」
と一言つぶやいてから、彼女は淡々と語り始めたという。
「わたし、実はあの頃、同棲していた彼氏がいたの。愛してたんだけ
ど、暴力が酷かった。そんな時、幸希と知り合って、優しい人だなぁ
って軽い気持ちで体の関係を持った。そのあと、妊娠してることに気
付いて、慌てたの。だって、もしも彼の子供じゃなかったら、わたし
殺されるって思って。彼には内緒で、唾液を採取して、鑑定してもらっ
たの。彼の子だった。それから、結婚したんだけど、暴力はやまなかっ
たし、薬にも手を出していて、生きるだけでも必死だった。わたしは、
ただ両親のあとをくっつきまわって世界中を転々としていただけで、
学歴もあまりない。給料をたくさんもらえるような良い企業に就職す
ることもできなかった。父親が中国に転勤になるって話を聞いたとき、
裁判を起こしたの。離婚するためにね。離婚が成立して、両親と中国
へ渡った。両親は、わたしのことも子供のこともよく面倒を見てくれ
た。でも、このままずっと一緒にいるわけにいかない。そのとき、ふ
と幸希のことを思い出したの。どうしてだか分からないけど。日本。
日本なら、たくさん給料もらえるかもしれない。一度、子供を連れて
アメリカに渡って、一緒に飲んだ幸希の友達を探したんだ。洋服のショ
ップを経営してたよね。何十件もお店を回ったけど、それほど時間が
かからずに探すことができた。《今度日本に遊びに行くから、久しぶ
りに会ってみたいんだけど、どこで何してるか分かる?》って聞いたら、
《最近連絡は取っていないけど、帰国してから勤めたって会社は
知ってるよ》って。早速ネットカフェに行ったら、その会社で海外勤
務経験者なんて募集があるじゃない。きっと会えるって思って、応募
したら受かったの。まともな職歴もないのにね。海外を転々としてい
ていろんな国の言葉がしゃべれるってだけで」
いったん口をつぐんだ彼女。一息ついて、
「ここからは、本当は話すのが辛いんだけど……」
と言うと、また涙がドッと溢れたらしい。
-第70話へ続く-
テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学
2007/02/28(水) 08:00:34|
笑@会社
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| コメント:4
幸希の子供ではないんじゃないかな・・・?って思ってましたが、やっぱり、嘘ついてましたね、若月さん。
朝子もほっとしたようで^^
やっぱりね、もし本当にそうだったら・・・
自分と付き合ってた時間、ずっと苦しませてきたんだなって思っちゃいますから。
そこは本当、うん。良かったです^^
若月さんにも色んな背景があって可哀想だけど・・・
でも、同情なんてしてやらないぞ!><
朝子達をここまで引っ掻き回したんだもん!
もっと自分で何かやれたはずなのに、結局誰かを頼って、しかも嘘までついて!
まだ、素直な気持ちで接してきてたら・・・理解出来たかもしれないけれど。
厳しいかなぁ?@@;アセアセ
まだまだヘビーなお話は続くようですが・・・
うぅ〜ん、気になりますね><
- 2007/02/28(水) 12:39:22 |
- URL |
- chacha #-
- [ 編集]
大丈夫

chachaさんの意見、厳しくないですよ♪
ホント、その通りです!!ずいぶん昔に知り合った幸希を
頼らざる終えなかったのも悲しいですよね。
嘘、つかなかったら良かったのに。つく必要もないし…。
実は、わたしヘビー系は苦手なので、そろそろ皆が
↑上昇するようなお話になるといいな〜と思ってます☆
やっぱりね、皆が良い方向に向かえるように!
朝子には、もう何肌も脱いでもらいますよ(笑)
- 2007/02/28(水) 22:30:48 |
- URL |
- ユミ #-
- [ 編集]
chachaさんの言うとおり!
嘘ついてまで縛り付けて自分の優位を保とうとするの、いくらなんでも、ね。
幸希さんが若月さんに惹かれることも、もうないだろうし…ここに来て二人でご飯食べて、ちょっと朝子の気持ちも穏やか。一瞬浮かんだ迷いをどうするのか、若月さんの話の続きはなんだったのか…嬉しい結果を期待してます(*^o^*)
- 2007/03/01(木) 12:18:09 |
- URL |
- らんらら #-
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そうそう!!若月さんのやり方はずるいよね…。
幸希を騙しただけではなく、朝子も傷つけたんだもん。
幸希は、これで女恐怖症になったりして?!
でも、だんだん皆がHAPPYを目指しますよ♪
コメントありがとうございます☆
- 2007/03/01(木) 22:34:56 |
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- ユミ #-
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