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まるもり 第5章共存-第6話-

まるもり 第5章共存-第6話-

「なつみ」
その店の看板には、そう書かれていた。
「あたしの店だよ」
大家は、振り向きもせずそう言って、鍵を開けて中に入る。
後ろから、
「大家さんの名前ですか?」
と聞いてみたが、返ってきたのは、
「関係ないだろ?店では、ママだ」
冷たい返事だった。
それでもメグルは、彼女の名前なのだと思った。そして、その風貌には似つかわしくないと、一人ほくそ笑んでいた。

 店内は、外観とは違って、小奇麗だった。
ただ、酒と煙草の慣れない匂いは気になる。
そのことを大家に言うと、彼女は慣れているからか、何の匂いもしないと笑った。
そして、
「大家じゃないよ、ママだ」
と、念を押す。
「まったく、あの子が使えなくなったからねぇ」
ママは、ため息をつく。
そう広くない店内は、カウンターに席が五つと、テーブルにソファの席が二つあるだけだ。
ソファ席の脇を通り過ぎ、ママは奥のドアを開ける。
「ほら、トイレ掃除だよ」
顎をグッと持ち上げて、来るように言われる。

 トイレも思ったより清潔だった。
フロアよりトイレのほうが空気が良いような気すらする。
「そこが終わったら、テーブルと椅子を拭くんだ」
大家は、メグルの近くを離れていった。
トイレは和式一つだけだが、メグルは、トイレの中で一人たたずんでいた。
何をどう掃除したらいいのやらわからないのだ。
トイレ掃除などしたことがない。
雑巾で拭くのだろうか。
いやいや、便器に触るなど気持ち悪い。
迷っていると、遠くから大家の、いや、ママの怒声が飛んでくる。
「早くしてくれよ」
はいはい。
メグルは頭の中でつぶやいて、とりあえず一度水を流すためにレバーを動かす。
ジャー。
水が勢いよく流れた。
掃除をしている振り。これでいい。
メグルはもう一度水を流した。
そして、怒られた。
「水は一回だよ。もったいない」
ママの怒声は延々と続くのである。

まるもり 第5章共存 第7話へ続く


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    2008/09/29(月) 12:00:28| 笑@会社 | トラックバック:0
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まるもり 第5章共存-第5話-

まるもり 第5章共存-第5話-

 メグルは、星花と別れてから、すぐに大家の家に行き、スーツにアイロンをかけた。
そんなことをするのは初めてで、何度も横から口を挟まれた。
「あんた、だらしがないねぇ」
最後のシワを伸ばしたときに、大家は呆れてため息をついた。
「真樹子の子供だよ」
まるで、何十年も真樹子のことを知っているかのような口ぶりだ。
メグルは、大家がトイレに入った隙に、急いで服を着替えた。シワがない服は、やはり気持ちがすっきりして背筋が伸びる。
クリーニング屋がしてくれた仕事ではなく、自分でやったことなので、なおさら気持ちがシャキッとした。
トイレから出てきた大家は、メグルを見て、ニヤリと笑う。
「いいね。行くよ」

 連れて行かれた場所は、歩いて一分もかからなかった。
アパートをグルッと半周したところで、大家は足を止める。
急に歩みを止めたものだから、メグルは大家の背中にぶつかりそうになった。
そこは、アパートの裏手だった。
いつも曇りガラスから透けて見える、怪しい紫やピンクのネオンがついている方向だ。
メグルは、アパートを見た。
端から部屋を数えていく。
自分の住む二○三号室。
何か黒いものが、ゆらゆらと揺れているのが見て取れる。
真樹子だろう。様子を伺っているのだろうか。
メグルの視線に気づき、大家もその方向へ目をやった。
「ちぇっ、真樹子。戻ってきたんだね」
軽く舌打ちをしてから、メグルに向き直り、
「まぁ、いいや。今日はあんたに働いてもらうから」
と、嬉しそうな顔をしている。

 アパートの裏手のその場所は、小汚い店が連なっていた。
看板は古く、すす汚れ、陰湿な空気が漂っている。
生ゴミでもあるのか、吐き気すら覚える。
狭い路上では、鳩がアスファルトの隙間を狙って、何かをついばんでいる。
メグルは、グッと鼻から息を吸うのを止めた。
口を小さく開け、そこで呼吸をする。異臭に耐えられなくなっていた。
「どうしたんだい、口開けて。お馬鹿に見えるよ」
大家に小言を言われても、これは耐えられない。
大家の手が、メグルの顔に忍び寄る。
唇の上下を手でくっつけられると、メグルは息苦しくなって、プハーと大家に息を吹きかけた。
「嫌だよ、この子は」
大家は、本当に嫌そうな顔をして、また歩いて行く。
「早くしな」
連なる店の端から三つ目の店の前で、足を止めている。
大きな声で指示されて、メグルはそこまで小走りになった。

まるもり 第5章共存 第6話へ続く


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    2008/09/26(金) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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まるもり 第5章共存-第4話-

まるもり 第5章共存-第4話-

 「あんなヤツなんだけど、感謝はしてる」
少女は、名前を星花(せいか)と名乗った。
星の花。よく、星屑とは言うけれど、あれを「クズ」などと呼ぶのは良くない。
そうだ、星の花だ。
そう言って、彼女の母である大家は、彼女の名前をつけたという。
ロマンティックな話だ。いまの大家からは想像がつかない。

 メグルは、いまだに通路に腰を下ろすことができずに、コンビニ前にたむろする若者たちのように腰を浮かしてしゃがんでいた。
「あいつは、オヤジと離婚してから、おかしくなっちまった。そして、あたしたちの生活も一変した。あたしも、変わった」
一方星花は、べったりと地べたに座り、今度は赤ん坊を胸の前で抱いて、自分は壁に寄りかかった。
「あたしたちに残されたのは、ババァのばあちゃんが残してくれたこのアパートだけさ。これでもあたし、お嬢様だったんだよ」
星花の胸の中で、赤ん坊が目を覚まし、星花はその薄い髪の毛をサラサラと撫でた。
口をもごもごと動かし、何かを言いたそうな顔を、必死に覗き込む。
その様子は、母親らしく見えた。

 お嬢様とは程遠いその風貌を、メグルは横から眺める。
髪の毛、着ている服、話す言葉。どれを取っても、ちょっと悪い子に見える。
「信じられないだろ」
星花は笑った。
口の端だけをゆっくり持ち上げて、
「ふふ」
と言ったときには、育ちの良さを感じた。
「こんなところじゃなんだから、家に入ろう」
メグルが誘うと、星花は、首を横に振った。
「隣に話が筒抜けさ。あんたが家に来ればいい」
メグルは、何故かこの少女と話したいという衝動に駆られていた。
大家との約束の時間が迫っていることが悔やまれる。
というか、約束したことさえ悔やまれる。

 「あ、明日でもいいかな?出掛ける約束があったのを忘れてた」
メグルは、いつもの誰をもホッとさせる笑顔を作った。
「ちぇっ、なんだよ。あんたが誘ったくせに」
少女は軽く舌打ちをしたが、本気で怒っているようではなかった。
赤ん坊を片手で抱いたまま、スクッと立ち上がり、お尻の汚れを払う。
そして、
「明日いつでもおいでよ。あたしは、ババァの下の部屋さ」
そう言って、ゆっくりと廊下を歩いていった。

まるもり 第5章共存 第5話へ続く


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    2008/09/23(火) 09:00:33| 笑@会社 | トラックバック:0
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まるもり 第5章共存-第3話-

まるもり 第5章共存-第3話-

 「あんた、どっかのお嬢様だろ?」
金髪少女は、子供をおんぶしたまま、アパートの廊下に座り込んだ。
「硬いところに座っていると痔になるよ」
というメグルに、また頬をプルプルさせて笑っている。
「あんたの父ちゃんに会ったよ」
「真樹夫さんに?」
メグルは、金髪少女にあと数センチでキスするくらい近づいていた。
少女は、「そんな趣味はない」と、座ったまま後ずさり、あと少しで手すりに赤ちゃんをぶつけるところだった。
「あいつ、あたしの親なんだ」
「はっ?」
驚きすぎて、顎が外れたような感覚に囚われた。
開いた口が塞がらない。という状況は、これまでにもあったけれど、これが史上最高の驚きだ。この先も、きっとこれ以上驚くことはないだろう。

 わたしたち、姉妹なのね。
メグルは、何も言わずにただ首を縦に振り、彼女の目を見て目を潤ませた。
真樹子さんにはショックな出来事だろうけど、わたしは嬉しいわ。
だって、ずっと姉妹に憧れていたの。
胸の前で、手を組み、まるで神に祈るかのようなポーズでいるメグルに、金髪少女は言った。
「あんた、なんか勘違いしてるだろ?」
一つ大きくため息をついて、
「あたしの親ってのは、あのババァのことだよ」
そう言って、二○四号室の閉まったドアを指差していた。
メグルの夢ははかなく、一瞬で散っていった。

 「紛らわしいこと言わないでちょうだい」
怒り気味のメグルに、
「あんたが勝手に勘違いしたんだろ」
たて突く少女。
そのうち、言い争うのに疲れたメグルは、黙り込んだ。
おかしくなって、笑った。ケラケラと。
勝手に勘違い。確かに、そうだ。真樹夫は、真樹子に誠実だ。浮気などしそうもないし、そんな暇すらないだろう。あるのはお金だけだ。
それに、もし真樹夫の子供であれば、真樹夫は自分の子供をこんな風に育てないと思った。
こんな風に?
メグルはもう一度少女を見た。バサバサの金髪頭。化粧は濃く、服装は派手な色のキャミソールに、切りっぱなしのジーンズのショートパンツ。
良く見れば、それほど悪くもなさそうだ。
ときおり瞬かせる目は、澄んできれいなものだった。

まるもり 第5章共存 第4話へ続く


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    2008/09/20(土) 08:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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まるもり 第5章共存-第2話-

まるもり 第5章共存-第2話-

 我慢をする。自分勝手に行動しない。
自分を制していると思うと、大人になった気がして、嬉しくなった。
メグルは、一人アパートの廊下に佇みながら微笑む。
嬉しくなって、「ふふっ、ふふっ」と声を上げる。
「きもちわりぃやつだな」
いつから、その場所にいたのか。
メグルが廊下に出たときには、いなかった。
足音がしないように、いつの間にか現れたのだ。
先ほどの、金髪の少女。大家と言い争っていた相手。
目の周りは黒く縁取られていて、相手を威嚇するかのような鋭い視線を放っている。
二本足で歩いているのが不思議なほど、彼女は獣に近い雰囲気がある。

 「んだよ。見せモンじゃねぇぞ」
少女は、首を下に向け、上目遣いにメグルを睨むように見ている。
睨まれているのに、なぜか憎めない。それは、自分より身長が十センチほど低かったからかもしれない。
小さなその少女の背中には、赤ん坊がいた。母親が大声を出しているというのに、気持ちよさそうに、口を半開きに開けて寝ている。
のっぺりとした、まだ表情のないその顔は、生まれてそれほど年月が経っていないだろうことを思わせた。
「ダメだと思う。お母さんが、そういう言葉を使うの」
少女の後ろに回って、子供の寝顔を眺めてみる。
「可愛いね」
メグルは、目を閉じている赤ちゃんに向かって話しかける。
「お名前なんですかー。なんちゃいですかー」
「うるせぇ」
少女は身を翻して、メグルから赤ちゃんを隠した。

 なんて怖い顔をしているんだろう。そして、どうしてこんな言葉遣いなんだろう。
メグルは口を歪めていた。その少女を、ただ、可愛そうな目で見ていた。
こんなお母さんに育てられた子供は、どうなってしまうのだろう。
「やめなさいよ」
自分でもびっくりするくらい、大きな声を出していた。
「お母さんでしょ?そんな言葉遣いみっともないわ」
頭の中には、真樹子の顔が浮かんできた。
真樹子さんは、いつでも優しかった。
言葉遣いも上品で、丁寧だ。いつも穏やかだ。
真樹子さんといると、心穏やかになれる。
少し頼りないけど、そして、今は少し暗くなっているけど、大好きなお母さん。
「あのね、インガホウオウって知ってる?あなたがそんなだと、将来子供もおかしくなっちゃうんだから」
メグルは鼻息を荒くした。

 ふん。
相手も鼻息を荒くした。
そして、下から睨み付けるような目つきそのままに、
「あんた、アホだね。それを言うなら、因果応報だろ」
と言ってから、ブハハハと大声で笑った。
一気に顔が柔らかくなっていた。

まるもり 第5章共存 第3話へ続く


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    2008/09/17(水) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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まるもり 第5章共存-第1話-

まるもり 第5章共存-第1話-

 真樹子は、部屋の隅から動かなかった。
大家に怒鳴られたことがショックだったのだろうか。
膝を抱えて、虚ろな視線を、自分の布団に投げつけている。
真樹夫に追い出されて、この部屋に来たときと同じような状態になっていた。
「ねぇ、真樹子さん」
メグルが優しく声をかけても、ピクリともしない。
瞬きをすることと、息を吸っていることで胸が動くことだけが真樹子のいまおこなっている動作だ。
「気にしないで、真樹子さん」
もう一度言葉を投げかけると、真樹子は大粒の涙を、メグルの手の甲にボタボタと落とし始めた。
「だってね、うぃっ」
まだ酔っ払っているかのような、声を出すので、メグルはこらえきれずに、肩を小刻みにして笑う。
頬をつねっても、お腹をわしづかみにしても、笑いは止まらない。

 「メグルちゃんって、意地悪なのね。わたしのこと笑って」
真樹子のぐずぐずは、長い間続いた。
「わたしって、不幸よね」
真樹子の言い分は、こうだ。
自分は、金持ちの家に生まれたばかりに、幼い頃から誘拐されやしないかと、いつも周囲に過敏になっていた。
近寄ってくる人は、金目当ての人が多く、気心が知れた友達は少なかった。
真樹夫と結婚して間もなく、両親が交通事故で他界した。遺産相続で、親族間に争いごとが勃発し、殺人未遂事件にまで発展してしまったこともあったという。
そんな心労の中、メグルが生まれてきたことが、真樹子の唯一の慰めだったと言う。
だから、メグルに笑われるのは、寂しくて、惨めだとつぶやいた。

 そんなことがあったのか。
メグルは、深くため息をついた。
いつもほがらかで、笑顔の絶えない真樹子。
家事全般が苦手で、遊び歩くのが大好きなママ。
子供より子供らしいお母さん。
「ごめんね、真樹子さん」
真樹子の肩に静かに手を置いた。
そして、
「わたしが行ってくるから。お金稼いでくるからね。待ってて」
細い腕で力こぶを作って見せた。
そして、待ち合わせまでだいぶ時間があるというのに、スーツを着て、玄関へ向かう。

まるもり 第5章共存 第2話へ続く


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    2008/09/14(日) 09:00:00| 笑@会社 | トラックバック:1
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まるもり 第4章旅立ち-第12話-

まるもり 第4章旅立ち-第12話-

 大家が、四本家の玄関で、突然発狂し始める。
「あぁぁあぁ」
首をぶるぶると横に振っているさまは、漫画の中では、感電してドクロが見えている状態に良く似ていた。
「どいつもこいつも、だらしがない」
そう言うと、まずは後ろを振り向き、金髪の少女に声をかけた。
「あんたはね、しっかり子供を育てなさい。いつまであたしの世話になっているのさ」
肩をドンと突くと、少女はよろけて手すりにぶつかった。茶色く錆びたそれは、少しぶつかっただけで簡単に壊れそうなほど脆く見えた。
「出てってやるよ」
少女は、大家に叩かれた肩に手をやり、顔を歪めて去っていく。

 その後姿は、部屋からは見ることはできなかった。大家は、ドアを開けたまま玄関に立ち尽くし、少女が立ち去ったほうを、しばらくの間眺めていた。
その目は、夕陽を浴びて、キラキラと光って見えた。
メグルは、寂しい気持ちを抱いた。どうしてかと問われれば、うまく表現することはできない。
大家は、瞬きをしたときに、一粒大きな涙を流した。
顔を背けて、ドアノブにかけていた手を離す。その涙を拭ったのだろう。
見てはいけないものを見てしまったかのように、メグルは黙ってうつむいた。
真樹子は、相変わらず、ドアから見えない位置に隠れている。

 二人の間に、何があるのだろうか。
寂しげな大家に同情を抱いた瞬間、
「そうだ、真樹子いるかい?」
大家は、大声を上げて、こちらを向いた。先ほどまで涙を流していたのが嘘のような、怖い目をしていた。反射的に、首を横に振る。
「あいつ、逃げたのかい」
チッと舌打ちをする。
先ほど、真樹子を追いかけてこの部屋に来たのを忘れたのだろうか。
真樹子がこの部屋にいないわけがない。でも、それが分からないのだ。

 「まったく、あんたの母さんは、何にもできないみたいだね」
大家は、フンと鼻を鳴らしてから続ける。
「アイロンを持ってるかって聞くから、貸してやろうかと思ったら、真樹子、かけてって言ったんだよ。あんた、どこの誰が、隣人にアイロンかけをお願いするのさ」
大家は、もっともなことを言っている。それは、メグルにもわかっている。
だいたい、真樹子はアイロンをかけたことなどない。服はいつだって、クリーニング屋任せだ。
「焼きいれてやらなきゃね」
焼きの意味が分からず、メグルは、トボケた顔をして首を横に傾ける。
「あんたもね。六時だからね。根性叩きなおしてやる」
「いえ、わたしは」
メグルが反論するのを、大家が、鬼の形相で睨む。
「あんた、来なかったら、ここ出て行ってもらうよ」

大家は、メグルの部屋のドアをコツコツと二回ノックした。
そのときの顔は、悪魔の遣いのように、恐ろしく、そして不気味なものだった。
「行きますとも。アイロンもかけますとも。是非とも貸してくださいまし」
メグルは、自分のスーツケースから、やはりしわくちゃになった服を取り出すと、大家に満面の笑みを見せた。

まるもり 第5章共存 第1話へ続く


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    2008/09/11(木) 12:00:38| 笑@会社 | トラックバック:0
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三歩進んで二歩下がる

なにごとも、急ぎすぎてはいけませんね。
早く元気になりたくて、昨日散歩をしていたところ、前から悪かった心臓と先日発覚した病気が元で呼吸困難となって、路上に倒れてしまいました。
助けてくれたのは、小瀬付近を回っている郵便局員さん。持ち歩いているという水筒の冷たい水を飲ませてくれ、救急車まで呼んでくれようとしました。
前日に病院に行ったばかりだったし、救急車は大丈夫というと、携帯で友人に電話をし、車で来るように指示をしていました。
「近くだから歩いて帰れます。すみません」
と言うと、
「心配しなくていいんだよ。おじさんが倒れたときは、あなたに助けてもらうから。困ったときはお互い様なんだよ」
と…。
軽トラで来た郵便局員さんのお友達に、自宅まで送るように指示してくれました。
お友達も、
「心配することないよ。心臓け?無理しちゃダメだぞ」
と…。

2時間ほどしてようやく落ち着いてきて、夕方には起き上がれるようになりました。
本当は今日から復職しようと思っていたのに、まだまだ早かったみたいです。
一人で出掛けるのは怖いから、平日のお昼は自宅でできることをマイペースでしています。
ゆっくりゆっくり落ち着いて進んでいかなきゃですね。

郵便局員さん、お友達さん、本当にありがとうございました。


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    2008/09/11(木) 10:48:24| 笑@会社

まるもり 第4章旅立ち-第11話-

まるもり 第4章旅立ち-第11話-

 「何だとぉっ、おい」
もう一回言ってみろ。
怒鳴り声は、まるで自分が言われているかのように、近くで響く。
「ガキみたいなこと、言ってんじゃないよ、あんた」
最後は、力いっぱい大きなため息をつく。
この声で、何人が鼓動を早くさせただろう。
下の階では、赤ちゃんが泣き始めた。
「うるさーい。まったく、ガキがガキ作りやがって」
その言葉に反応したのか、下で、バタンと大きな音がした。
ドアを閉めたのだろう。そして直後に、
「うぜぇんだよ、ばばぁ。早くあの世に行けよ」
少しかすれてハスキーな女の子の声が聞こえた。

 キィィィ。
玄関で音がする。
メグルは這って、部屋から玄関を覗く。真樹子の布団のお陰で、メグルは何の音も立てずに移動できた。
玄関では、真樹子がそっと、少しずつドアを閉めていた。
メグルのほうにお尻を向けている。緊張しているのか、足が震えているように見える。
自分の家に入るのに、あれほど気を遣うこともないだろうに。
メグルは、肩肘をついたまま、真樹子の布団の上に横になり、その様子をジッと眺めていた。
そして、あと数センチでドアを閉められるだろうというところで、真樹子は動かなくなった。
大家の大きな手が、ドアの間に現れたのだ。
自分は何もしていないのに、桃子は咄嗟に布団から飛び起きた。

 ドアは開かれた。
真樹子は、慌てて靴のまま部屋に駆け込んできた。
玄関に仁王立ちになったのは、大家だ。
その向こう側の空は、もうすぐ夕昏るのか、雲が薄いピンク色に染まっていて、メグルはその美しさに見とれていた。
大家の向こう側に、金色の髪を、ぐしゃぐしゃにかきむしった頭をした少女を見つけるまでは。
そして、その少女を見た瞬間、メグルは絶叫する。
一瞬しか見なかったその少女を、メグルは、何かの動物と勘違いしたのだった。
メグルは倒れ、真樹子は大家から身を隠し。
四本家の別棟は、またまた大騒ぎとなるのであった。

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    2008/09/08(月) 12:00:10| 笑@会社 | トラックバック:0
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まるもり 第4章旅立ち-第10話-

まるもり 第4章旅立ち-第10話-

 「お金がない」という事実は伏せておいた。
「どんなことでもするわけではない」ということは、伝えておいた。
一度ついていったら、もう元通りになれないのではないかという不安は、メグルにはない。いつだって、やり直せる。人生一通りではないのだ。
辛かったらやめればいい。適当に寄りかかれる人をみつけて、頼れば良い。
真樹子は、その仕事を「ラク」と言っていたけれど、いったいどんな仕事なのだろうか。
六時に大家が迎えに来ると言っていた。決まって、六時なのだろうか。
「あんたにも、服を貸してあげるよ」
大家が襖を開けて取り出した服は、どれも地味で、メグル向けではなかった。
苦笑いをして、首を何度も横に振る。
 
 夕方になり、曇りガラスの向こう側が赤く染まり始めた頃、真樹子の携帯電話が鳴った。
その音に、大きく反応して、真樹子は体を起こす。
大家の部屋から戻ってきて、真樹子は長い時間、布団に身を沈めていた。
飲み慣れない酒をのんだからだろうか。
そのわりには、すっきりと目覚めたのか、携帯電話が鳴った直後に、すぐに立ち上がった。
真樹夫さんの家にいたとき、この家に来たとき。
いつだって、これほどキビキビと動く彼女を見たことがない。自分のスーツケースから服を取り出している。そのほとんどは、狭い空間にぴっちりと詰め込まれたことで、皺が寄っている。そして、皺がついたままプレスされていた。
「やだぁ、もう。見て、メグルちゃん」
喋るときだけは、前と変わらない。
「しわしわしてて、着れなぁい」
妙に間延びした声。これは、自分では何もしたくなくて、誰かに何かをしてほしいときの言い方だ。
困ったような顔をしていて、一瞬だけ、鋭い目つきで様子を探ってくる。
その瞬間に目が合うと、真樹子は気まずそうに顔を背けた。

 これまでも、似たようなことがあったかもしれない。
煩わしいこと、面倒くさいことがあると、真樹子は必ず甘えたような声を出していた。でも、実際にメグルは何もしてやらなかった。なぜなら、メグルは真樹子に輪をかけて、面倒くさがりだからだ。
「大変だね、真樹子さん」
なんて、声をかけるだけで、関わらないようにしてきた。
そんなとき、真樹子は近所の仲間に、手当たり次第に電話をかけていた。
そして、気のいい誰かがやってきて、真樹子に甲斐甲斐しく世話を焼く。

 メグルがいつまでも無視していると、真樹子は一つ大きく咳払いをし、部屋を出て行った。
「大家さーん」
親しげに声をかけている声が、部屋にも聞こえてくる。
そして、大家の返事をする声も、大きく聞こえてくる。
可愛らしく、
「服がね、シワシワになっちゃったんです」
「あぁ、アイロンかい?持っていきな」
「あん、違うの」
「なんだい」
大家は、このときはまだ優しい声だった。
そして、そのあと、真樹子が何かを言ったのは、メグルには聞き取れず、突然大家の怒声が響いた。

まるもり 第4章旅立ち 第11話へ続く


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    2008/09/05(金) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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お知らせ

最近ある病にかかりました。
治療に専念するために、少し小説を書くことをお休みしようと決めました。
現在連載中の「まるもり」は、ほぼ書き終えているので、今の更新頻度
(3日に1話くらい)のペースで、予約投稿してあります。
ですが、皆さんからコメントいただいても、すぐに返信できないかもしれなくて、
それで、こういったお知らせをさせていただくことにしました。

いま命に関わるようなことではないと認識しています。
入院もしないし、いまのところ通院治療になります。
PCもできないわけではありませんが、お返事は遅くなるかもしれません。
そして、皆さんのところへ遊びに行く回数も減るかもしれません。
(っていうか、最近もう減りがちでしたが…)

でも、一生懸命頑張って治して、また元気に復活したいと思っています。

それでは。

2008.9.3 ユミ

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    2008/09/03(水) 20:19:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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まるもり 第4章旅立ち-第9話-

まるもり 第4章旅立ち-第9話-

 「働いてみたら?だって、メグルちゃん、今の会社にいても芽が出そうにないじゃない?」
とは、真樹子の言葉だった。
意外に冷たく、重い言葉。メグルは、あんぐりと口を開けて、それを、ただ言葉通りに聞くだけだった。
真樹子は、まだ、メグルが会社をクビになったことを知らない。
「やめちゃいなさいよ。そして、新しい道を切り開くのよ」
いやに前向きである。
昨日までメソメソと泣いていた姿はどこにもない。
何があったのか。聞くのは簡単だが、知るのが怖い。

 真樹子と大家は、優雅に紅茶を飲む。
ボロアパートに相応しくないティーカップが、やけに目につく。
「それにね、ラクなの、ラク」
ラク。
その一言は、メグルの頭中を駆け巡った。
メグルが一番求めているもの。それは、「ラク」。
難しいことは嫌いだし、面倒になると逃げてしまうメグルには、必要不可欠な言葉。
でも、お金あるし。無理に働かなくてもいいわ。
そう思ったところへ、携帯電話が鳴った。
それは、タイミングが良かったのか悪かったのか、メグルの贔屓先の銀行だった。
その話の内容に、メグルは首を傾げるだけだった。
 
 もともとどんよりした空気のボロアパートの一室。
以前は白かっただろう壁や天井。この景色を見るだけで、気持ちはかなり下降する。
「四本さん、申し訳ないのですが」
銀行の女性は、声だけは本当に申し訳なさそうに、ただ、はっきりとした口調で言った。
「残高が不足しております」
言われたことの意味は理解した。
しかし、どうして自分の口座がそれほど貧相なのか分からなかった。メグルの口座には、毎月の給料以外に決まったお金が入ってくる。
それは、真樹子にも秘密の、真樹夫からの小遣いだった。
給料と同額ほどの金額を、いつも送金してくれていた。それが、止まっているようだった。
「意地悪なやつ、許さない」
またも、怒りの矛先を、向けるべきではない相手に向けた。

 メグルには、お金を手に入れる術はもうない。
携帯電話が止められる。カードが使えなくなる。それは、致命的なことだ。
いずれなんとかなるだろう。
一度は法外な手数料を取る機関から借りることを考えた。
しかし、すぐに首を横に振る。
どうせ返せなくなって、「体で返せ」と言うに決まっている。
テレビの悪影響を受けているのか、すっかりその気になって、体を震わす。
真樹子の話に乗ってみようか。
それが、体で返す方法に近いことが、後に判明する。

まるもり 第4章旅立ち 第10話へ続く


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    2008/09/02(火) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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