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まるもり 第4章旅立ち-第1話-

まるもり 第4章旅立ち-第1話-

 「何よ、あの男」
柏木に腹を立てながらも、
「海斗のほうがマシかも」
などと、他の男のことを考えるあたり、自分を好きでいてくれる人材が豊富で、心に余裕がある。
「それか、隆ちゃん。うん……。隆ちゃんは、ちょっと年が上過ぎるかな。それにお金が心配だし」
今年三十八歳を迎える隆ちゃんは、三川隆三という舞台役者だ。将来があるかどうか、四十近くになっても芽はまだ出ていない。
「はぁぁ、ろくな人がいないなぁ」
タクシーの後部座席で、ぶつぶつと不平をぶちまける。

タクシーの運転手は、メグルのつぶやきに苦笑いし、まだ暗い闇夜に向かって、大きな口を開けてあくびを繰り返した。
「うわ、最悪」
メグルは、小声でつぶやいた。
斜め後ろの座席から、運転手がカバのように大きく口を開けたのを見たことに対する小言である。
視線を落とし、自分の手元を眺めながら、ありったけの嫌そうな顔をしてみせた。

 一番荘の最寄り駅まで、タクシーはスムーズだった。
運転手にお金を渡す。お釣りをガチャガチャと取り出しているのを見ると、メグルは面倒な気持ちになってくる。そこで、いつも言ってしまう一言。
「あ、お釣りけっこうです」
ニヤッとして、お礼を言うドライバー。
「お金を大切にしなさい」と、説教を始めるドライバー。
怒ったように、釣り銭を手渡してくるドライバー。
様々である。
今回のドライバーは、説教タイプだったが、
「若いキレイなお嬢さんから、余計なお金はもらえないよ」
という優しい言葉で片付けられた。

 正直どちらでもよかった。もともと財布の中身を計算する趣味はない。なければ、銀行からいくらでも湧き出てくると思っている。お金がないという状況が、メグルには分からないのだ。
一番荘の目の前までタクシーをつけるのはやめた。あまりにも惨めだ。例え二度と会うことのない運転手であっても、このボロアパートに、四本メグルが住んでいるということを知られたくなかった。どうせ、タクシーの運転手は、メグルのことを知らないだろうけど……。

まるもり 第4章旅立ち 第2話へ続く



テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/08/08(金) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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