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まるもり 第3章極貧-第11話-

まるもり 第3章極貧-第11話-

 運転手は、何も言わず、何も聞かず、車は静かに走る。

真樹夫さんは、わたしたちを捨てた。
真樹子さんは、あの変な隣の人にどこかへ連れて行かれて、お酒なんか呑んで帰ってきた。
わたしは……どうしたらいいんだろう。
柏木さんは、きっとわたしを暖かく迎え入れてくれるわ。

 深夜の国道は、思った以上に空いていた。
車はいるけれど、一番端のレーンを一列まるまる占領しているのは、タクシーたちだ。
それを横目に、メグルの乗ったタクシーの運転手は、鼻歌を歌い始める。
耳障りだ。
と思っても、メグルは黙っていた。

 二十分ほどして、柏木の住むマンションに着いた。
三十にして、トップデザイナーとして世界に羽ばたいている柏木は、高級マンションに住んでいる。
タクシーから降りて、メグルは、自分の姿を一度確認した。
あの汚らしい部屋から出てきたのだ。埃やら、ゴミがついているかもしれない。服を一生懸命手で払う。
髪に手をやったところで、風呂に入っていないことに気付く。
変な匂いがしないだろうか。腕を持ち上げて、鼻から思い切り息を吸ってみる。
微妙。微かに、あまり慣れない匂いがするような、しないような。
仕方ない。
この時間でも、起きていて、頼りになるのは柏木しかいない。

 エントランスは、暗証番号を押して入るようになっている。
メグルは、その番号を慣れた手つきで押していく。
ジーッという、鍵の開いた音が、静かなホールに響く。
変な人物が一緒に入ってこないように、素早くドアを開け、思い切り閉める。
エレベーターホールに向かって、上のボタンを押す。
夜中に使用する人は少ないのか、エレベーターの箱はすぐにやってきた。
柏木の部屋がある十一階までも、すぐに連れて行ってくれる。

 角の一一〇一号室が、柏木の部屋だ。
チャイムを鳴らす。
深夜三時近く。この時間に、誰かの家を訪問するということが、迷惑という感覚が、メグルにはない。
ただ、柏木も、夜型人間なので、この時間でもたいていは起きていて、何かを考えたり、デザインしたりしている。それをメグルはよく知っていた。

 案の定、チャイムを鳴らすと、柏木は待たせることなく、一度で玄関先に出てきた。
ドアの覗き穴から見たのだろう。
鍵を開け、チェーンを外す音が、廊下にも響き渡る。
「メグル。どうしたんだ?」
柏木の表情や、態度は、付き合っていたときと何も変わらなくて、メグルは、先日の「別れよう」
という電話が、嘘だったのだと確信した。

まるもり 第3章極貧 第12話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/08/04(月) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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