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まるもり 第3章極貧-第10話-

まるもり 第3章極貧-第10話-

 メグルは、真樹子を引っ張り、何とか部屋の中に入れた。
引きずられている間に、真樹子は狭い廊下の壁に、手足を何度もぶつけていたが、高らかにいびきをかいて寝ていた。
いびきと言っても、年配男性がよくやる、
「グォォッ」
というようなものではなく、
「クァァァ」
というような、可愛らしいものだが。

 押入れの扉は外れたままになっている。
少しそれをずらして、中から真樹子用の布団を取り出した。
自分の布団に母が寝るのを拒んだのである。
「ゲロでもされたら困るし、わたしの布団が酒浸しになっちゃう」
まるで大玉転がしのように、真樹子を布団まで押してみた。
「もう、知らない」
メグルは、お財布と携帯電話を小さな肩掛けに入れ、アパートを飛び出した。
オートロックの四本家とは違い、このアパートはもちろんそんな優秀な機能はついていないのだが、メグルはそんな一般的なことを、考えもしなかった。
ただ、部屋を飛び出して、駅前までひたすら走った。
走るのは好きではない。
でも、シンとした暗闇を、のんびりと歩く気にはなれなかった。
怖いのだ。
「四本真樹夫の娘」
というだけで、狙われることも不思議ではない。

 小さい駅。夜中の二時を過ぎているので、もちろんもう電車は動いていない。
どこからか人が流れてくるほど、飲み屋もない。
それでも、タクシーが止まっている。一台だけ。運転手は、外に出て、車体に寄りかかりながら煙草をふかしている。
こんな静かな夜に、あの人は、何を思いながら、一人佇むのだろう。
皆が寝静まっているころ。あまりにも静かな時間だ。
メグルは、運転手に近づいた。
お互いに、不審者を見るような目つきになっている。
怖いのだ。暗闇で、知らない人と一対一で対峙することが。誰でもそうだろう。人間それほど強くない。
タクシーの運転手は、煙草の灰をアスファルトの上に撒き散らしながら、メグルを視線で追う。
一方、メグルは、その撒き散らされた煙草の灰の行方を眺めていた。
あの車に乗ったら、しばらくして、爆発するんじゃないかな?タイヤ、燃えちゃうよ。
火種が落ちたわけでもないのに、勝手に車が炎上するシーンを思い浮かべた。

 「あの」
笑顔を使い分ける。
今の笑顔は、初対面の人専用。
笑いすぎず、引きつらず、口の端を軽く持ち上げた微笑。
これで、相手はコロッと心を許してくれる。
運転手が、顔を緩ませた。
「えと、ここまで」
メグルは携帯電話のメモリーから、柏木の名前を画面に出して、住所を読み上げた。
住所まで登録しているとは、メグルにとっては丁寧な仕事ぶりだ。

まるもり 第3章極貧 第11話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/08/02(土) 08:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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