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まるもり 第3章極貧-第9話-

まるもり 第3章極貧-第9話-

 真樹子が帰ってきたのは、深夜二時を過ぎた頃だった。
膝を抱え、真樹子の無事を祈ることしかできなかったメグルだったが、いつの間にか壁に寄りかかりながら眠りについていた。そして、ドアに何かがぶつかる音で目を覚ました。
それは、ドーンというとてつもなく大きな音で、部屋が軽く揺れたほどだった。
何か小さな爆発でもあったのだろうかと、メグルは、狭く短い廊下を走りぬけ、玄関のドアを開けた。

 そこには、メグルが見たことのない真樹子がいた。
ドアに一度ぶつかっただろう真樹子は、その反動か、通路の手すり側の壁によりかかるように座り込んでいた。グッタリとして、動く様子はない。
メグルが手をかけようとすると、隣の二○四号室のドアが勇ましく開く。
二○三号室寄りに開くお隣のドア。風圧で吹き飛ばされる。ということはないけれど、あまりの勢いに、メグルは二○二号室の前まで飛び退いた。

 「ほら、お母さんのお帰りだよ」
隣人のおばさんは、コップに並々ついだ水を、メグルに手渡してきた。
近寄った隣人から漂う、お酒の匂い。
真樹夫も真樹子も酒を呑まないせいか、メグルも滅多なことがない限り、飲酒はしない。誰かの結婚式、忘年会。お酒を呑むのは、そんなときだけだ。
だから、漂う匂いに、胸がむかむかとしてくる。
メグルはコップを受け取ると、真樹子に近づいた。そして、そのムカつく匂いは、隣人からだけではなく、真樹子からも漂っていることが分かった。

 メグルは、その空気を自分の体に入れたくないと感じていた。
鼻をつまみ、口を閉じ、関係ないのに目も瞑って、真樹子のいる方向へ向かってコップを突き出す。
「くくく」
隣人が、笑いながら部屋に戻ろうとする。
「真樹子って言ったっけ。なかなかいいよ、あんたのお母さん」
そういうと、隣の部屋の中へ消えていった。
壁際では、真樹子が、
「ぷぁぁ」
などと、変な息を漏らしながら、水をぐいぐいと飲み干している。
母として、何もしない真樹子を嫌だと思ったこともあったけれど、それより輪をかけて、今の真樹子を嫌いと思った。

目は虚ろ、体はふにゃふにゃとして、メグルの目には軟体動物のように映った。
たとえるなら、海の中の蛸のようだ。
ふいに涙がこぼれ落ちた。
「この人、嫌」
言葉も、自然に口をついて出た。

まるもり 第3章極貧 第10話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/07/31(木) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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