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まるもり 第3章極貧-第6話-

まるもり 第3章極貧-第6話-

 真樹子は、いつまでもめそめそと泣いている。
捨てられた。この一言が、いつまでも真樹子の胸を締め付けているようだ。
「あのぉ」
メグルは、怒りを押さえ込んで、隣人に話しかける。
「もう大丈夫なので、出て行ってもらえません?」
誰もが、ホッとするような笑顔の作り方をメグルは知っている。
猛烈に怒っていた人でさえ、優しい気持ちに変えてしまう顔。
初めて、それが効果を発揮しない相手を見た。

 「あたしゃね、そんな笑顔に騙されないよ。でも、あんた気に入った」
座ったまま、隣人は、メグルに擦り寄ってきた。
「ふん、この軟弱そうな手。あんた働いたことないんだろう」
メグルの手を取って、しげしげと見つめる。
「あの紳士的な男に、蝶よ花よと育てられたんだろうね」
指を開いたり、手の甲をさすったり、マッサージするかのように押したりする。
目を瞑っていれば、まるで好きな人が隣にいるような気になってくる。
ただ、真樹子のすすり泣く声が、絶えず聞こえてきて耳障りである。

 隣人は、メグルの手をさすりながら、真樹子に向き直った。
「あんたね」
凄みのある低い声。
「この可愛いお嬢ちゃんが、お腹を空かしていても、何とも思わないのかい?」
一瞬、背筋がゾッとした。手を撫でたり、お嬢ちゃんと呼んでみたり。危険な香りがプンプンと漂ってきて、メグルは肩を震わせた。薄暗い部屋が、より一層気まずくなるような空気を醸し出す。
真樹子は、泣きながら、それでも何かを言おうとして、
「おぇっ」
と、吐きそうな声を何度かあげた。
「まぁ、あんたは可愛いから人気も出ると思うけど、うちは若い子に免疫はないからねぇ」
隣人は、メグルの手を離すと、今度は真樹子の目の前に座り込んだ。
「あんたもさ、なかなか可愛い顔してるじゃないか。ちょっと待ってなよ」
一度部屋から姿を消し、紙袋を抱えて、再び戻ってきた。
そのときまでに、真樹子はすっかり泣き止んでいた。
「ほら。これを着て、六時に廊下に出ておいで」
メグルと真樹子の二人は、もともとは白かっただろう少し薄茶けた紙袋に、おそるおそる触れた。
その間に、隣人は何かをもごもごと言いながら、そして時折低い声で笑いながら、部屋を出て行った。

 「なに、このぼろきれ?」
「さぁ…」
メグルは、人差し指と親指で、紙袋の中のものをつまんで引っ張った。
「東湖の服じゃない?」
それは、二人にとってはみすぼらしいくらい着古されたスーツだった。
そして、薄紫色のそれは、真樹子の目には気味悪いものとしか映らなかった。

まるもり 第3章極貧 第7話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/07/22(火) 17:30:21| 笑@会社 | トラックバック:0
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