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まるもり 第3章極貧-第3話-

まるもり 第3章極貧-第3話-

 頭を左右に大きく振る。
あのときの、嫌な記憶を遠く奥底へ閉じ込めるのだ。
あの日以来、一度も失敗はしていない。
メグルは、あのときの泥棒が予測した通り、登録してあるのは右手の人差し指の指紋だ。
指を伸ばし、センサーに近づける。普段どおり、何も考えず、サッと通すだけ。
指を通す、その一瞬に、少しだけ強く風が吹いた。
少し、歪んだのだろうか。ブッ、ブッと拒否の音がする。
恨めしそうに、空を見上げて、
「ちぇっ」
と、つぶやく。
あと二回。

 二回目も、すんなり失敗した。
あと一回。失敗すれば、サイレンが鳴る。
メグルは上を見上げた。
二階の自分の部屋は、道路に面しているので外からも見える。カーテンは閉まったままだ。
主のいない部屋は、寂しがっているだろう。
そういえば、廊下の鉢に水をあげなければ。
真樹夫はいるのだろうか。
自宅にまつわる様々なことが脳裏をよぎる。

 三度目の正直だ。
そうつぶやいてからメグルは目をつむってセンサーに指を通した。
ウーウー、ウー。
失敗した。サイレンが高々と鳴り始める。
近所に、子供に手がかからなくなり、自宅で優雅に過ごす老夫婦がいる。
街の防犯役員を買ってでているその二人は、叫び声が聞こえると、自宅から飛び出してくるほど正義感がある。
メグルの自宅の斜め前の家だ。このサイレンを聞きつければ、すぐにでもやってくるだろう。

 メグルは玄関のアプローチに横向きに寝転がった。
誰かに倒されたかのように見えるだろうか。誰かに嘘をつくとき、その誰かが騙されると思うと、ひとりでに笑えてくる。
なにも悪いことをしているわけではない。
青い空が果てしなく広がっている。
遠くから足音が近づいてくる音がする。
地面に耳を近づけているせいか、やたらに大きな振動が伝わってくる。
「しばらくバイバイ」
一つポツンと浮かんだ雲に向かって、ウインクをしてから目を瞑る。
「おせっかいな近所のおばちゃん、大げさに騒いじゃって」
いつもの穏やかさを隠し、ニヤニヤと笑った。

まるもり 第3章極貧 第4話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/07/15(火) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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