笑@会社

日々面白いことを求めて爆走中!!

まるもり 第3章極貧-第1話-

まるもり 第3章極貧-第1話-

三万円を財布に入れ、メグルはスキップしたい気分になっていた。
快晴の空。爽やかな五月の風。暑すぎない日差し。
こんな日に、仕事をしていたらもったいなくて仕方がない。
人生は一度きりなのだ。だれかに束縛されたり、何かに縛られて生きることなど、まっぴらだ。
「ふぅ、でもなぁ」
メグルは、空を見上げた。
三万円というお金は、メグルにとって何日ともたない金額だ。
ヘタをすると、一日で使い切ってしまうときもある。

 「またバイトでもするかな。グフフ」
彼女の言うバイトは、汗水たらして苦労して働くものではない。
適当に描いた絵に、何十万も出す金持ちが、メグルの相手。
もちろん、彼らはメグルの将来を見込んで、名が売れないうちに買っておこうという魂胆がある。世界的に名が売れたときに、高額で売却するためだ。

ぼんやりと歩いているうちに、気付くと、メグルは、昨日まで住んでいた自宅に戻ってきていた。
習性とは怖いものである。
車がすれ違うのがやっとの細い道路に面した門扉。
段差が少ない石畳が続くアプローチ。
その左右には、背丈の低い木々や花たちが、風に吹かれて揺れている。
門扉を開けるのにも、鍵が必要だ。
メグルは、バッグの中からキーリングを取り出した。
それには、家の鍵が三つ、車の鍵、会社のロッカーの鍵やら、いずれも重要な鍵がまとめてあった。
これ一つ失ったら、大変なことになる。
普段ボーッとしているメグルであるが、このキーリングだけはなくさないように心がけている。

 門扉を開けて、アプローチを小走りで駆け上がり、玄関にたどり着く。
玄関の鍵は三つ。
二つは鍵穴に鍵を差し込むもの。
残りの一つは、指紋認証だ。
この指紋認証キーをつけた当時は、画期的なシステムだと、誰もが絶賛したものだ。
しかし、それはしばらくして、それは大変にやっかいなものだと思うようになる。
このキーは、あらかじめ、登録された五つの指紋によって施錠、開錠されるようになっている。
三人家族の四本家。
三人分の指紋を登録しておいた。

ある日のことだった。
真樹子が庭の手入れをしていて、バラの棘が刺さり、人差し指の先っぽに、ほんのり赤い血が滲んだ。
それだけで、真樹子は大騒ぎだった。
貧血を起こすやら、当分体調が悪いなどと平気で嘘をついたが、実際の処置は、絆創膏をはるだけだった。
その絆創膏が原因で、指紋認証機が真樹子の指紋を拒否したのだ。
当然だろう。絆創膏を貼ったままの指で、何度もセンサーに指を通したのだ。

 ちなみに、防犯上、この機械は三回続けて過った指紋を感知すると、とたんにサイレンのような警報音を発する。そして、警備会社に即座に通報されることになっているのである。

まるもり 第3章極貧 第2話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/07/08(火) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
  1. | コメント:2