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まるもり 第2章どん底-第9話-

まるもり 第2章どん底-第9話-

 そんなメグルの幻想を砕いたのは、一本の電話だった。
まだ始業時間前の会社からだ。
遅刻しそうなことが、誰かに分かってしまったのだろうか。
よく考えればありえないことなのに、妙に緊張して通話のボタンを押した。
「今日会社に着いたら、社長室へ直行して」
聞きなれた声だが、何を言っているのか正確に聞き取れない。
走っているメグルの耳には、時折吹く心地よい風が後方へ流れていく音のほうが大きく聞こえる。
そして、何度も繰り返し、
「えっ?聞こえないです」
と、繰り返す。

上司に向かって、一度も、
「申し訳ありませんが」
とか、
「すみませんが」
と、一言断って聞きなおしたりはしない。
それが四本メグル流。
上司は、そのことについて、いつも苛立っている。
それに気付くはずもなく、メグルは自分の調子でことを進めてしまう。
きっと誰かが注意していれば。
という考えは、もうこの時点では遅い。手遅れの状態になっていた。
誰かに諭されたり、駄目なものは駄目と言ってもらえたら、マシになっていただろうに。

「来月いっぱいで会社を辞めてもらいます」
会社に到着して、上司の言うように社長室へ向かったメグルは、何の余談もなしに言い渡された。
誰に言っているのだろう?
メグルは、部屋の中をぐるっと見渡して、最後に社長の顔を見つめた。
自分が可愛く見える位置は、首を十度くらい左に傾げたところ。
視線は少し俯き気味で、顎は引いて、口の端を軽く持ち上げる。
それは、その辺を歩いている男には効果があるとしても、会社の社長には何の効果も発しない。それを、メグルは分かっていなかった。
「今日から有給使っていいから。もう出てこなくていいよ」
社長は、机の上を何度も人差し指でコツコツと叩き、イライラを隠さなかった。
 
 それでもメグルは笑っていた。
社長の前で、ニッコリと微笑みを絶やさず、立ち尽くしていた。
そうしていれば、何か現状が変わるかもしれないと思っていた。
眉根を寄せて、メグルの顔を眺めている社長。
そして、数秒間の見つめ合いは、社長が先に視線を逸らして終わった。
「勝った」
メグルは、そう思った。
自分の思い通りにことは動く。目を逸らすということは、負けを認めたということ。
メグルは、嬉しそうに社長に笑顔を向ける。
「でー、てー、いー、けー」
ごく最近、どこかで聞いたようなフレーズ。
社長の怒って赤くなった顔。

 どうして?
メグルは、最近どこでその言葉を聞いたかということと、社長が怒る理由を必死に考えていた。

まるもり 第2章どん底 第10話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/06/23(月) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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