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まるもり 第2章どん底-第8話-

まるもり 第2章どん底-第8話-

 柏木が、何故突然別れを切り出したのか。そんなことは、メグルにはどうでもいいことだった。
ただ、遊ぶ仲間が一人減るだけ。その減った分は、もし寂しければ増やせばいいだけだ。悲しむこともない。
メグルは、携帯電話を放り投げて、再び天を仰いだ。
天井の染み。それより気になる、低い唸り声が聞こえ始めた。
「怖いなぁ」
そっと起き上がる。
目の前には、まだうつぶせに転がったままの真樹子が一人。
伸ばした右手は、助けを求めているように見える。
その手の指が、微かに動いている。
 「真樹子さん?」
メグルは、静かに這って真樹子に近づいた。
「生きてる?」
そう聞くことが、もう間違っている気がするが、メグルは、一定の距離を保って真樹子を見つめている。
唸り声は、地を這うように聞こえてくる。
それが、寝息と分かるまで、メグルは真樹子を遠巻きに見つめていた。

 だから。
というわけでは、決してない。
メグルは、翌日寝坊をして、会社に二十分ほど遅刻した。
時間には、それほどルーズではない。それどころか、例えば待ち合わせなど、時間の十分前には着いていないと気が済まないほうだ。
必死に会社へ向かっていた。
言い訳など考える暇もなく、どのルートを通ったら一番早く会社へ到着できるかを考えていた。
だいたい、前の晩に、真樹子の寝息にうなされ、朝起きたときには、自宅から追放されたことをすっかり忘れて、アパートの部屋にいちいち驚き、バッグから着替えを取り出し……それから、それから。
一人大慌てで、出てきたのだ。

 真樹子はまだ昨晩と同じ場所に突っ伏していたが、何か声をかける暇もなかった。
水道が出ないので、顔も洗えず、歯も磨けなかった。
駅まで走っていく間に、緑豊かな大きな公園があった。
汚くて、いつものメグルなら、近寄ることすらしなかった公衆トイレに駆け込む。
タイルに描かれた意味不明な落書き。誰かの携帯電話の番号。誰かに対するメッセージ。
「怖い」「汚い」と思う間もなく、メグルは自分の体を清めるかのように、手洗い場の水を出し続けた。
本当なら、頭も洗いたいところだが、やめておいた。
会社に行くまでに、乾くはずがないからだ。
それに、車通勤ならまだしも、電車で行かなければならない。
車中の好奇心の目が向けられるのは、我慢ができなかった。

 幾分さっぱりとしたときには、時計の針は思ったよりも進んでいた。
実は、真樹夫が探してきたアパートは、自宅の最寄り駅と三駅離れているだけのところだ。しかも、アパートからの最寄り駅は、自宅の最寄り駅より会社寄りの位置にある。
それでも、もう間に合わないのは目に見えていた。
「間に合わないくらいなら、さぼっちゃおっかなぁ」
果てしなく広がる青空を見上げると、自分がどこへでも行けそうな気になっていた。

まるもり 第2章どん底 第9話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/06/20(金) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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