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まるもり 第2章どん底-第6話-

まるもり 第2章どん底-第6話-

 その押入れの音が、携帯電話のバイブ音だと気付くまで、三十分以上かかった。定期的に何度も繰り返される音を煩わしく思い、山積みになった荷物を、あたり構わず投げ散らした結果、携帯電話だと気付いたのだ。

着信は、メグルが一番親しく付き合っている男、安西海斗からのものだった。
海斗は、少しばかり嫉妬深く、メグルの行動を時々監視する。
電話に出ないときは、出るまで鳴らし続けたりする。
何も用事がないときは、電話に出るものの、誰かと会っているときの電話は煩わしいので、切ってしまうのが常だ。
そのことに、海斗は少なからず腹を立てている。
面と向かって、電話に出ないことをなじられたこともあったが、メグルは、特にそれを気にしてはいなかった。

メグルには、人や物に執着するという性格が理解できずにいた。
いつも誰か特定の人と一緒にいなければならないことは苦痛だった。
海斗のことを嫌いなわけではないけれど、ややこしくなるのはご免だった。
それでも、気の良いメグルは、相手が海斗と分かると、すぐに電話をかけなおした。

 不機嫌な声を聞くと、それだけで気分が悪くなる。
メグルの周りは、基本的には明るい人ばかりで、大声を出して怒鳴ったり、人の悪口を言う人はいない。
「メグゥ、最近冷てぇな」
海斗は不愉快そうにしている。電話の向こう側は、人通りが多い場所なのか、ザワザワと人の声と軽快な音楽が聞こえてくる。
「海斗楽しそうだし、いいかなと思って」
「メグゥと一緒じゃなきゃ、どこにいても楽しくないよ」
海斗は、いつもこう言って、メグルを困らせる。
友達といるとき、家族といるとき、そして、恋人といるとき。
それは、それぞれに楽しい時間であり、決してどれが一番と選べるものではない。
そして、比べるものではない。
それなのに、海斗はいつも、メグル以外の人間といることを詰まらないと片付けてしまう。
そういうことを言う海斗に、メグルは苦笑いをして返すしかなかった。
本当なら、
「別れよう」
と、言いたいのに、言い出せない自分にも腹立たしくなっている。

 面倒だなぁ、もう。
携帯電話を切ってしまおうかと、耳に電話をあてたまま、左手の指でボタンをなぞる。
「せーのっ」
心の中で、自分を励ます意味も込め、小さくつぶやく。
そして、親指で、通話を切るボタンを押した。
ピッ。
高い電子音が耳に残る。
雑踏の音楽や人の声は、一瞬のうちに聞こえなくなった。
そして、あのちょっとねっとりした、海斗の声も。

まるもり 第2章どん底 第7話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/06/16(月) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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