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まるもり 第2章どん底-第3話-

まるもり 第2章どん底-第3話-

 「ねぇ、今のは何だったの?人?どう見ても、人間には見えなかったけど」
いつの間にか、真樹子は通路に戻ってきていた。
「メグルちゃん、怪我はない?」
メグルの手を取って、小さく悲鳴をあげる。
真っ黒の指に驚いたのだ。
「なんてこと?消毒しないと」
先ほど、部屋の鍵が開いていたことなど忘れて、真樹子は二○三号室のドアを勢いよく開けた。
そして、水道の蛇口をひねる。

 ぴとっ。
僅か一滴の水滴が、蛇口から落ちてきた。
それ以外は、いくら待っても、何も出てこない。
水道とは。
二人にとって、水道とは、蛇口をひねれば望み通りの量の水が溢れてくるもの。
水が不足するということは考えられないし、何より、お金を払わなければ水が使えないことすら知らない。
「んもう、壊れているじゃない」
真樹子が、ヒステリックに叫ぶ。
すると、奥にある部屋の壁がドスンという音を立てた。
「ぎゃっ」
玄関を背にして、メグルを盾に、真樹子は小さくなった。
ドスン。
もう一度その音は、部屋の奥から響いてきた。

 真樹子が、メグルの背中を、トンと押した。
不意をつかれたメグルは、前のめりになって、転んだ。そして、頭だけが、奥の部屋に入る。
ひんやりした部屋。そのくせ、埃っぽく、カビのような匂いが、メグルの鼻をついた。思わず目を瞑り、息も止める。
次の瞬間、背後でものすごい悲鳴があがった。
転んでうつぶせになった状態でも、思わず両手で耳を塞ぐ。
これで、五感のうち、三感がシャットアウトされた。

 悲鳴の後に、ドサッと何か重いものが投げ捨てられたような音がした。そして、直後に、メグルの足に、その何かが乗っかって、今度はメグルが短く悲鳴をあげた。
「ん、きゃ」
「まったく、うるさい親子じゃな」
聞き覚えのある声。
「だーっとれ」
メグルは、足元に乗っかった何かを蹴り、取り合えず、自分が起き上がれるスペースを作った。
人が一人立てばいっぱいの玄関。
廊下とも呼べないような、二、三歩だけのスペースには、左側に小さなキッチンと、右側にはドアがついている。多分、ユニットバスか何かだろう。
その廊下ともいえない廊下も、人が一人通るのがやっとだ。

 ようやく身を起こすと、メグルが蹴り上げたものは、母、真樹子だった。
気を失っているのか、身動き一つしない。
「真樹子さん?しっかり」
メグルが、体を揺すっている間に、ドアに立ち塞がったその人物は、もう一度言った。
「だーっとればいいんじゃ。うるさいのはきらいなんじゃ。うるさくしたら、また壁殴るよ」
隣の女は、二人に一瞥くれると、二○三号室のドアをゆっくりと閉めて出て行った。

まるもり 第2章どん底 第4話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/06/09(月) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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