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まるもり 第2章どん底-第2話-

まるもり 第2章どん底-第2話-

 その事実を目の前にして、真樹子は足早にドアから離れた。
二○二号室、二○一号室の前を駆け抜け、階段の手すりに手をかけている。
錆びた手すりが、手を赤茶色に染めても、気にしないほど、真樹子は怯えていた。
「メグルちゃん、危ないわ。逃げて」
悲鳴にも似た声で叫ぶ。
それは、静かな夜の闇に響き渡り、遠く彼方へ吸い込まれていく。
メグルはもう一度その場にしゃがみ、新聞受けから部屋の中を覗いた。

ガチャッ。
どこかで鍵の開く音がする。
キューン。
女の人の高い声のような音がして、メグルは身を震わせた。
階段から遠いほうの隣、二○四号室のドアが、廊下に向かって開かれた。
「うるせぇ」
低くしゃがれた声が言う
闇からじわじわと聞こえてきたその声に、メグルは腰を抜かした。
一度ついてしまったお尻は、持ち上げることができなかった。真樹子はひときわ大きな声を上げ、階段を駆け下りていく。

 「おまえ、誰じゃ?」
しわがれたその声の主は、家の中から這いつくばって出てきたようで、手を地についている。
そして、顔を上げなかった。
もっさりとした髪の毛は、まるで海の中に漂う海藻を頭からかむったようだ。
縮れたり、伸びていたり、黒か灰色か分からないその物体が、おどろおどろしく見える。
それでもメグルは勇気を出して、近づいてみる。
「来るな。先に名を名乗れ」
声だけでは、男か女かも分からないその人は、まだ顔を上げない。
「四本メグルです」
顔も見ない相手に向かって、メグルは愛想よく笑いかけていた。

 「変わった奴じゃ」
そのモサモサ髪は、出てきたときを逆戻りするかのように、手をついて部屋の中へ消えていく。
「待って」
なぜ、止めたのか、メグル自身分からなかった。とにかく、片足を閉まるドアの間に滑り込ませていた。
「えっとね」
モサモサ髪は、玄関にうずくまっていた。
息を殺しているのか、静まり返っている。
「えっとね」
メグルは、もう一度言って、
「宜しくお願いします」
と、頭を下げた。

「わたしの生活の邪魔をしなけりゃ、好きなだけいたらいいさ」
多分女で、多分五、六十代のその人は、片方の口の端を持ち上げてニンマリと笑う。
「ただしっ」
突然の大声。
メグルは、一瞬体を震わせ、その後金縛りにあったように動けなくなった。
「邪魔したら、許さんよ」
ほら、出て行け。
そう言わんばかりに、彼女は、メグルの両足をつかんで、外へ追いやる仕草を見せた。

閉まるドア。
ドアノブを触ると、くっきりと指の後がついた。
その代わりに、メグルの指は、真っ黒になっていた。

まるもり 第2章どん底 第3話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/06/06(金) 19:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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