笑@会社

日々面白いことを求めて爆走中!!

まるもり 第1章追放-第12話-

まるもり 第1章追放-第12話-

 昼はとっくに過ぎていた。
すいているはずのお腹も、いまは何かで満たそうとは思えなかった。
いま満たしてくれるのは、真樹夫の笑顔だけだろう。それ以外は、何もいらなかった。
二人が待つ部屋に、真樹夫は一向に戻ってこなかった。

 数時間経って、戻ってきたときには、テーブルの上に一つの鍵を無造作に置いた。
「僕も鬼じゃない。部屋くらい借りてやろう。手付金と一か月分の家賃は払ってきた。あとは、自分たちで何とかしなさい」
ポケットから、少し皺の寄った紙を取り出す。
何かの地図だ。
メグルは、それを手にとって、眺めた。
首を傾げると、ゴリゴリと音がする。
「あぁん、もう重い荷物持っていたから、肩が凝っちゃったみたい」
ふふふ。と笑ってみせた。
いつも世の男の子たちに、「可愛いね」といわれる笑顔の作り方を、メグルはよく知っている。
この笑顔に、微笑を返さない人などいないと、自信を持っていた。
メグルは、真樹夫の顔に視線を走らせる。
笑っていなかった。
「ひっ」
思わず声を出し、顔を背ける。
怒ってる、怒ってる、怒ってる。
人生初の出来事に、メグルは頭が混乱した。

 何が原因なのか、さっぱり分からない。
聞いてみる勇気もない。
真樹子は、普通の顔をしてゆっくりと部屋の中を眺め回している。
正面に座る真樹夫の顔を直視できないのか、そこだけは視線をはずして、いつまで経っても視線を固定しない。
真樹夫がゆっくりと立ち上がった。
「さぁ、行くんだ」
真樹子とメグル、二人が用意したスーツケースの把手に手をかけ、背中を向ける。
二人は立ち上がらなかった。真樹子はまたシクシクと泣き出す。
そして、ついに、自分たちが追い出される理由を真樹夫に問う。
「まだ分からないのか?それなら、なおさら出て行くんだ。そして、自分たちで、よく考えなさい。今回追い出された理由がわかって、それを改善できるまで、この家には入らせない」
真樹夫は、二人が放り出していた荷物のすべてを玄関まで運んだ。
優しさと怖さが同居した彼を、二人は涙目で見つめる。

 本気なのだ。
何がどうなって、真樹夫を怒らせてしまったのか分からない。
荷物だけ追い出されたリビング。体は、根が張ったように椅子から離れない。
「さあ、行きなさい」
急かすでもなく、淡々と喋るその言葉が、一段と冷たさを感じる。
「いやぁぁぁ」
真樹子が突然、狂ったかのように泣き叫ぶ。
それは、猛獣が獲物を獲得し、声高々に歓喜に満ちる鳴き声に似ていた。
真樹子は真剣だというのに、メグルは、その声に吹き出してしまう。
笑いというものは、こらえようとすればするほど、大きくなっていく。
最初は口元を押さえていたけれど、数秒後には、メグルの笑いはリビング中に響き渡っていた。
それに呼応するかのように、真樹子の鳴き声も大きくなる。
リビングは、耳を塞ぎたくなるほど、やかましい。

 真樹夫は一人呆れた顔をして、二人の様子を眺めていた。
ソファにぐったりと身を委ね、胸の前で腕を組む。
しばらくは、そうして眺めていたけれど、飽き飽きしたのか、真樹夫はやがて出て行った。
「今日中に、出て行きなさい」
それだけを言い残して。
真樹子の絶叫が止まる。
それと同時に、メグルも笑うのをやめた。
もう、真樹夫の言うとおり、出て行くしかないのだ。
二人は、覚悟を決めた。

まるもり 第2章どん底 第1話へ続く

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/05/31(土) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
  1. | コメント:4