まるもり 第1章追放-第10話- 数々の写真が壁に飾られている。
ここ数年の生活習慣は、真樹夫の海外生活の影響で、すっかり欧米化されていた。
ほとんど帰宅してこない真樹夫は、遠い異国の地から、たくさんの絵葉書やら写真を送りつけてきていた。真樹子は、それを隙間なくピッチリと壁に貼って楽しんでいた。
「真樹夫さんが近くにいるみたいに感じられるわ」
恥ずかしそうに、顔を赤く染めていたのを、メグルは鮮明に思い出すことができた。
口に出さずとも、二人がお互いに優しい気持ちを持って、想いを伝え、それを感じあっているのが、メグルにもよく分かっていた。
それなのに。
真樹夫に対して、真樹子と自分はどれほど酷いことをしたのだろう。
カーテンをそっと開ける。
目の前には、庭が広がっている。
新緑は目を安らげてくれるかのように、青々と茂り始めている。
真樹子が大切にしているバラの花たち。メグルが毎年楽しみにしているハーブ類。
それらを失うと思うと、またじわじわと涙が滲み出てくる。
目に溜まった涙を、そっと拭う。
そのとき、目の前を何かが横切った。
とても素早く、それはメグルの前を通過していった。
瞬き一つの瞬間だった。ただ、視界の端に、何か動くものが写ったのは、事実だった。
窓にへばりついて、それが動いていった方向に目をやる。
白髪が混ざったロマンスグレーの頭。
年に数回しか会わない真樹夫は、会うたびに老人と化していくように見えた。
後姿に、涙が出そうになる。
いつまでも「いる」と思っていた親の存在が、酷く遠く感じた。
真樹夫は、庭を通り過ぎ、駐車場に向かっていた。
そこには、真樹子とメグル、それぞれの専用車が置いてある。
真樹夫は普段日本にいないため、彼の車は地下の車庫に眠っている。
何をしているのだろう。
窓に張り付くように顔を寄せると、吐く息でガラスが曇る。それでも、冬のように曇ったまま消えないというわけではなく、すぐに視界は開けてくる。
「何してるのかな」
メグルは、こっそりと足音を消してリビングを出る。真樹夫は外にいて、リビングで多少どたどたと歩いても聞こえるはずはないのに、メグルは、まるで不法侵入者のように忍び足だった。
二階の自分の部屋に戻って、窓から庭を見下ろす。
そのときすでに、メグルの車は包囲されていた。
長いロープを前輪と後輪の間のボディに通し、それを一番近くの松の木に結び付けていた。
ずいぶん派手なことをするものだ。
メグルの車は、松の木とロープ一本でつながった。
それから、真樹夫は、同じように真樹子の車にもロープをかけた。
メグルの車の横に置いてあるその赤い車は、庭に面して止められていないので、くくりつけるものが何もない。
「どうするのかな?」
いつしか、胸躍る気持ちでメグルは真樹夫の行動を眺めていた。自分たちは、追い出される立場にいるということを忘れたわけではない。
それでも、真樹夫の行為を楽しいと感じていた。
結局、真樹子の車は、メグルの車に縛り付けられて、メグルの車は、ロープでグルグル巻となった。
それを見届けて、メグルは再び階下におりた。
まるもり 第1章追放 第11話へ続く
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2008/05/26(月) 12:00:00|
笑@会社
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