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まるもり 第1章追放-第9話-

まるもり 第1章追放-第9話-

 真樹夫も真樹子もどこにいるのだろう。
一階に着いて、メグルは、遠く物音を聞いた。
奥の洗面所のほうから、カタカタと小さな音がする。
近づくに連れて、その音は大きくなり、それと同時に、
「ヒッ、ヒッ」
と、しゃくりあげる声がする。
メグルは、そっとドアノブに手をかけた。ドアは内側に開けるタイプのものだ。
メグルは、ゆっくりと前方に体重をかけてみたが、ドアは少しも動かなかった。
まるで、誰かがドアにもたれかかって、開けるのを阻止しているかのようだった。

 「ねぇ、真樹子さんなの?」
ヒクヒクしている声は、女の声だ。この家に暮らす女は、真樹子とメグルの二人。
そして、この家に常に住んでいるのも、真樹子とメグル。
「それなのに、出て行かなければいけないの?」
吐き出される言葉は悲しくても、メグルは決して笑みを絶やさなかった。
「メグゥ…そうよね、メグゥ…」
ドアに背をもたれて悲しい鳴き声を発する真樹子。
本人は、「メグル」と言っているつもりだが、そうは聞こえない。
まるで、喉を潤した後の動物のような唸り声を出している。

 真樹夫の顔が、頭に思い浮かんだ。
あの怒った顔は、とてつもなく恐ろしいものだった。
いつも怒っている人が怒っても、「またか、放っておけ」と思うが、普段温厚な人が怒ると、
「どうしよう」と、あたふたしてしまう。
どうしてそれほどの怒りに触れてしまったのか。
気になって仕方なくなって、原因を考えて、悩んで、許してもらおうと思う。

 どこへ行ったのだろうか。
入れない洗面所から遠ざかり、メグルはリビングへ向かう。
いつも律儀に閉じてあるドアが、十センチほど開いている。
それは、いつもと違う行動をとる人がいる証拠である。
「パパ?」
四本家では、パパママと呼ぶことどころか、お父さん、お母さんと呼ぶことも禁止されていた。
家族とはいえ、名前があるのだから名前で呼ぶ。真樹夫の、風変わりなポリシーにのっとって、メグルは、親を親として認識する呼び名で呼んだことがなかった。
許しを請うという初めての出来事に、思わずパパという言葉が口をついた。

 ときおり、カタッと小さな音がするだけで、中からは人がいる雰囲気が感じられない。
「ふぅん」
メグルは、何もすることがなく、ただリビングを徘徊した。

まるもり 第1章追放 第10話へ続く


テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/05/21(水) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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