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まるもり 第1章追放-第8話-

まるもり 第1章追放-第8話-

 「わたしには、あんまり関係ないのに」
ねぇ。
鏡の中の自分に質問してから、それに答えるようにうなずく。
部屋を出て行く勇気がでなくて、先ほどからこれを何度も繰り返していた。
階下は、ようやく静けさを取り戻していた。
つい十分ほど前まで、真樹夫と真樹子が、メグルがこれまで見たこともないくらい派手な大喧嘩をし、大騒ぎを起こしていた。これまで、この家で言い争う声を聞いたことがなかった。それほど、この家は、穏やかだった。
そんな穏やかな真樹夫を怒らせた。

 「真樹子さんとわたしが悪いの?」
メグルは、涙を拭って荷物とともに廊下へ出た。
廊下は南に面して十歩分ほどの距離があり、レースのカーテンから暖かい日差しがこぼれている。
真樹子の趣味で並べられたプランターが、太陽の光を浴びて、鮮やかな緑色を放っている。
「お前たちは、ここにいられるんだね」
大きなため息を一つついて、メグルは、大量の荷物とともに階段を下りていった。
もうどうでもいい。
そんな諦めにも似た気持ちが先行して、メグルは、スーツケースを転がして、階段を大きな音を立てながら下りていく。

 静かな家。
そういえば、この家の中で、最近声を発したものがいただろうか。
真樹夫は、海外に住み最近では年に一度帰省し、それも二日ほど滞在するだけだ。
真樹子は、近所の仲間と食事や稽古事、遊びに出歩き、帰宅は深夜日付を回ることもしばしばだ。
そして、メグルは、仕事柄打ち合わせなどが長引くと、終電で帰宅することもあったり、それ以外では友人との食事や遊びに明け暮れていたので、やはり、帰宅は日付を回っていた。
仕事をしていない真樹子は、朝、いつまでも起きない。
いやでも、八時には家を出ないと会社に間に合わないメグルは、真樹子と顔を合わせることすらなかった。
この家で、もしも言葉を発したとしたら。
携帯電話で友達と話したときか、「ちぇっ」とか「あぁあ」というため息くらいなものである。

 メグルは、鼻歌を歌いながら、階下へ降り立った。楽しい気分になれるわけはないのに、自然と鼻歌が飛び出すのは、いつもの習性だろう。
「だって、楽しいほうがいいよね」
階段を降りるときに起こる小さな軋む音だけが、賑やかに聞こえてくる。

まるもり 第1章追放 第9話へ続く


テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/05/17(土) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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