まるもり 第1章追放-第4話- メグルは、大学生活を楽しんでいた。
四本真樹夫の娘だと知ると、みんなが集まってくる。
「真樹夫」という名前だけで、誰もが「四本」と言うくらい有名な建築デザイナーだった。
それに、建築だけでは飽き足らず、ファッションやブランド品も手がけて成功を収めて、世界の四本と
なっていた。
真樹夫の有名っぷりのお陰で、大学の教授たちも、メグルには一目置いていた。
そのことで得をすることはあっても、損をすることはなかった。
何人か、彼氏と呼べる存在の男の子もいた。
メグルの性格上、きっぱりと断るということができず、あちこちに彼氏ができていった。
そのうち、毎日予定がギッシリと埋まるようになり、家を空けることも増えていった。
メグルは何人もの人と付き合うことを悪いとは思っていなかった。
温和で、柔らかい雰囲気の彼女のことだ。浮気などするようなタイプに見えず、彼氏たちは、自分だけ
が唯一の彼氏と思っていただろう。
女の子の友達もたくさんいた。遊ぶ時間が足りないほどだった。
勉強などしている暇はない。
一方母、真樹子は、メグルが家を空けることが多くなり、最初のうちは落ち込んでいた。
自分は、一人ぼっち。涙は、水道の蛇口のように自由自在にあふれ出す。
徐々に明るさを取り戻したのは、メグルが大学生になって一ヶ月ほどしてからだった。
隣近所に住む主婦たちが、やはり子供が手を離れていき、同じように寂しい想いをして過ごしていた。
たまたまゴミ出しのときにそんな話になって、いつしかそう言う主婦の数は増えていった。
四本家がある辺りは、高級住宅街で、暇も金も持て余している人が多い。
そのうち、サークルなどを作って、朝から晩まで留守にするようになった。
四本家の部屋の明かりが点くのは、深夜から明け方にかけての時間帯が多かった。
大学を卒業する頃、メグルは一応就職が決まっていた。
アパレル関係の会社で、デザイン部門に配属されることが決まっていた。
炊事、洗濯、掃除。全部嫌いだったけれど、唯一針仕事だけは好きだった。
絵を描くことが得意で、針仕事も好き。
あまり勉強という勉強をしてこなかったメグルに向かって、大学の教務課のスタッフは、
「とりあえず、アパレルよ」
と、勧めてくれた。
そして、そのスタッフはこうも言った。
「でも、いいじゃない。四本さんは、お父さんが活躍されているから、働かなくても」
メグルは、その言葉に、胸ときめかせていた。
「働かなくてもいい。なんて素敵な響き」
両手の手のひらを太陽に向けて、グンと伸ばす。光の暖かさが、皮膚を通して体に染み込んでくる。
「わたし、就職なんて、しなくていいの」
すっかりその気になってしまった後の就職活動は、他の同級生と比べると酷くお粗末なものになって
いた。
教務課のスタッフが手配してくれたアパレル会社の面接にはかろうじて行ってみた。
もともとどうなってもいいと思って受けた試験と面接に、緊張するわけもない。それが返って良かった
のか、とんとん拍子に話は進み、やがて内定まで出ることになった。
一番驚いたのは、メグル自身だった。
これ、今から二年前の話。
まだまだ定職に就くのが厳しかった時代。
今のように、団塊の世代が大量退職して、少し空きができたから採用枠を設けるなんてことはなかっ
た時期の話。
メグルの友人たちもいっこうに就職が決まらずに、先を嘆いていた。
まるもり 第1章追放 第5話へ続く
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2008/05/09(金) 12:00:00|
笑@会社
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