悪は去って、明るい秘書室になりつつあります。
桃子は、のんびりしながらも、精力的に仕事をこなす日々。
新しい旅立ち、それぞれ頑張って欲しいものです。第149話阿東を許したとき、樹里の顔は穏やかになっていた。
樹里が言葉をかけても二人は立ち上がろうとせず、頭を下げっぱなしでいた。
テーブルをぐるりと半周し、樹里は後ろから二人の肩に手をかけた。
そしてようやく皆が同じようにテーブルについた。
「分かったよ、やってやるよ」
桃子は、そう言って、一人ひとりの顔を、順番に見ていった。
最後に阿東と目が合った。
情けない顔だ。
助けてやる義理はない。
それでも、困った顔をしていると、放っておけない。
それが、例えどんな人でもだ。
損な性格をしていると思う。
性格を変えられればいいと思うけど、思っているだけでできないものだ。
変えるということは、勇気と努力がいること。でも、変わった後は、清々しいものだろう。
とりあえず、桃子の職は、当面社長秘書ということで落ち着いた。
樹里は、一旦秘書室勤務に戻り、二ヶ月間で残務処理をして会社を去ることになった。
樹里がまだ会社にいる間、桃子はこれまで以上に秘書の仕事を覚えるように努力した。
パソコンは、努力の甲斐があり、ブラインドタッチまで習得した。
いまはそれが普通のことなのに、桃子は嬉しさを隠し切れずに、わざわざ大きな音でキーボードを叩く。
秘書室の皆は苦笑いだ。
正直なところ、英語は苦手だ。
これから先も、得意になることはないだろう。
パソコンがこれだけ上達したのだから、英語も触れているうちになれてくるさ。
気楽にマイペースにしていた。
有砂は、あの社長宅での一件以来、姿を見せなかった。
週明けに会社へ出勤すると、机の上がきれいに片付いていて、週末に彼女がこっそり会社に来て、
荷物をまとめて出て行ったことを知った。
デスクの上には、退職願が無造作に置かれていた。
その字は、丁寧できれいだった。有砂の律儀な性格が、よく表れていると思った。
その後、桃子は、自分のデスク周りを掃除しようと、キーボードを動かした。そのとき、一枚の紙切れ
が出てきた。
「花木さん、ありがとう」
誰が書いたのか、名前は書いていないけれど、退職願と同じ字だった。
「ありがとう」でもいいけど、「すみませんでした」だろ?
逃げるように去っていったのは、自分に非があると認めたからだろう。
それだけでも、有砂にとっては、苦痛なことだったかもしれない。
「ま、いっか」
桃子は、その紙をデスクの一番大きな引き出しに無造作にしまった。
秘書室勤務の秘書たちの仕事は相変わらず忙しかったが、あの恐ろしいほど静かな朝の時間は、明
るくなり、同僚同士の会話も増えていた。
桃子は、以前と同じ席に座り、有砂がいた席には、榛原未来が座っている。
樹里の営業部への転部騒動があり、急遽、副社長秘書についた未来。
有砂と戦ったのが、あの日一日だけでよかったと桃子は思っていた。
そうでなければ、未来は、有砂色に染められていたかもしれなかった。
未来が素直な心を持っているからこそ、桃子は、あの日一日で事態が収拾されたことに満足していた。
隣に座る樹里も、穏やかだった。
ときどき、意味の分からない言語を操っているときは、やたらにテキパキしていて怖いが、
だいぶ穏やかになった。
-第150話(最終話)へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2008/03/29(土) 08:00:00|
笑@会社
| トラックバック:0
-
| コメント:0