笑@会社

日々面白いことを求めて爆走中!!

女園秘書室-第148話-


人を許すということは、難しいこと。
でも、過ちを許すことで、何かから開放されることもあるでしょう。
新しい一歩を踏み出すため、樹里は、過去を清算させることが
できるでしょうか。


第148話

「僕の秘書になってもらえないか?」
阿東の口から出た言葉は、桃子を驚かせた。
その台詞は衝撃的過ぎて、開いた口が塞がらないとはこのことだと、初めて身をもって知った。
「いや、ともに、頑張ろう」
ともに?
どうしてあたしが、阿東と「ともに」頑張らなければならないのだろう。桃子は、ぼんやりと考えていた。
阿東に義理立てすることなど何もなかった。それより、樹里にしてきた裏切り行為の数々を思い起こす
と、腹立たしいことこの上なかった。
それでも、桃子は、言っていた。
「樹里さんに、許してもらえるまで謝ることだな。彼女が許したら、考えてやらないこともない」
偉そうにしてみせたが、それは本心なので仕方ない。
これまでのことを思えば、いま一緒にこのリビングにいることさえ、嫌だった。
心の狭い人間にはなりたくないと思ってきた。
困っている人がいたら、率先して手助けをすること。
桃子は両親にいつもそう言い聞かされてきた。
それに、
「嫌な人の中にも、必ずいいところがあるから、それを見つけるようにしなさい」
と教えられてきた。
阿東のこれまでの行為は、その限界を超えていた。
それでも……。

阿東は、椅子を離れ、床に正座をした。
両手を前につき、頭を床すれすれまで下げる。
「福井さん、申し訳なかった」
阿東は、部屋中に響くほど大きな声で言った。
何度も、何度も。
見ているほうが痛々しくなるほど、それは繰り返された。
樹里は、涼しげな顔をして座っていた。
彼女からしてみれば、いくら謝られても、足りないだろう。それほど酷いことが起こったのだ。
一つの命をなくす。例え、まだこの世に誕生していなかった命であったとしても、彼女の中では確実に
生きていたのだ。
男はそれを忘れてしまうかもしれないが、女は一生心と体に傷を負ったままとなるのだ。
桃子はもう一度樹里を見た。
一見冷めた顔をしていて、何を考えているのか分からない。
阿東は、あと何度謝れば許しを得るのだろう。
樹里は、このまま阿東を許さないつもりだろうか。
社長も、小夜子も、お手伝いである清香も、どこを見てよいのやら分からず、視線は宙を彷徨っている。

「すみませんでした」
それは、どこから発せられたか分からないような、小さな震えた声だった。
「申し訳ありませんでした」
その声の主が誰だか分かったのは、彼女が阿東の横に、同じように正座をし、頭を低く下げたからだ
った。
「阿東がこうなったのには、妻であるわたしにも責任があります」
阿東の妻は、長い間その姿勢を保ち続けた。
「もういいです」
樹里が、そう言うまで、二人は頭を下げ続けていた。

-第149話へ続く-

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/03/28(金) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
  1. | コメント:0