も1つの小説をいまだに赤入れまくっています。
間に合うのか?!
というわけで、ここからの更新、前説抜きになることもあります!
第142話結局、何がどうなって、どういう結末を迎えるのか、はたまたもう結末を迎えてしまったのかどうかさえ、
桃子には分かっていなかった。
社長は、会社を有砂たちに譲るといい、あんなに手に入れたかった会社という存在が目の前まで来て
いて、阿東は引継ぎを拒否した。やる気満々だった有砂の気持ちがどうなっているか分からなかったが、
もっと問題なのは、樹里や桃子の立場だった。
有砂の嫌がらせで、営業部に回された樹里は、もう退職届を用意している。
桃子も、このまま現社長が退任し、阿東や有砂が会社を動かす方に回るとなると、秘書を続けていこ
うという気持ちは起こらない。彼らが改心して、今までの行いを素直に反省すればまだしも、頂点に上
り詰めたことで、人を馬鹿にしたような態度をとり続けるのなら、許せない。
桃子は、ある程度は道を決めていた。出戻りで恥ずかしいが、ふたたび警備員に戻ろうと。
「桃子さん、どうするんですか?」
樹里は、空を眺めたまま、消え入りそうな声をだす。遠くどこかへ消えてしまうかのように、その声は、
空間に漂いもせず、消えていく。
「あたしは、やっぱり警備員が合ってるさ」
どれくらいの時間が過ぎたか分からない。
廊下を歩く人の足音を耳にし、桃子はその方向を向いた。
社長が、いつもと変わらない顔をして、近づいてくる。
「いつの間にか眠ってしまったよ」
何食わぬ顔をして、皆が言い争った部屋の中に入っていく。桃子と樹里も慌てて立ち上がり、後に続
いた。
部屋の中は、相変わらず静かだった。かなりの時間が過ぎているのに、誰もその場を動いていない。
それぞれが、何かしらの思いを抱え、考えることがあり、その場を動けずにいるのだろう。誰か一人が
動けば、みな動く。そんなものだ。
「皆で食事でもしよう」
社長の一言に、全員が驚いて顔を上げる。
「ゆっくり話をしよう」
六時に、ダイニングへ集まるように言うと、社長はまた部屋を出て行った。その足取りは、先ほど部屋
を出て行ったときとは違い、軽いように見えた。
廊下に座ってずっと外を見ていたはずなのに、陽が暮れていくことに気付いていなかった。何かを深く
考えているときには、周りなど何も見えないのだ。桃子は、これまでにない経験だと笑った。何かを深
く考えるなど性に合わず、いつも楽しくて笑っている人生を送ることが一番だと思ってきた。そして、自
分の人生から笑いを奪うものは、近寄らせずにきた。この会社の面子はいかがなものだろう。怒りや
悩みといった、これまでに縁のないものをもたらした。それは、厄介なものだった。イライラが募って、
心も蝕まれていくような感覚。
神が与えた試練なのだろうか?いつも笑っていられることはいいことだ。けれど、世の中にはもっと闇
の部分があって、それを知る必要があったとでも言いたいのだろうか。誰かをその闇から救い、自分も
一つ成長する。自分の知らない世界に、決して足を踏み入れようとはしなかった桃子は、運命に導か
れるようにいまの状況にはまりこんでいた。
考えることは少なかったけれど、行動だけは起こしてきた。桃子はそう自負していた。
夕食の席につく頃には、空は赤く夕陽に染まり、鳥が鳴きながら巣へ戻る物悲しい雰囲気が漂い始
める。夏が終わりを告げようとしている。桃子にとっては、食欲の秋はこの上なく好きな季節であった
が、夏が終わるというのは、日が暮れるのが早くなるせいか、どことなく寂しい気持ちになっていく。
結局、あの部屋から誰も動けずにいた。
桃子のお腹の虫が、部屋いっぱい響き渡るように鳴ると、我慢の限界が来たかのように樹里が一番
に吹き出し、笑いが有砂、小夜子、阿東へと順に伝染していった。
その笑いが消えるのが怖くて、桃子は大きな声で、ずっと笑った。そうして体力を使ったために、ます
ますお腹が空いてしまったのである。
時は、社長が指定した六時になろうとしていた。
誰からともなく部屋を出て、いったん全員が廊下に並ぶ。
今日初めてここへやってきた、桃子、樹里、小夜子は、ダイニングへ行く方向が分からないために、誰
かが動き出すのを待った。桃子など、場所を知っていたら、駆け出したいくらいだった。お腹が鳴り止
まなかったのである。
阿東の妻の案内で、ようやくダイニングに入ったとき、桃子はニンマリと笑みを浮かべていた。
メンバー的には、あまり楽しくないことは確かだ。社長には気を遣うし、有砂や阿東はまだ敵だ。面白
いわけがない。
ただ、テーブルの上に所狭しと並べられた料理の数々は、桃子を満たしてくれそうだ。
「食べるしかない」
つぶやきでしかなかった桃子の言葉は、静かなダイニングでは丸聞こえだった。
-第143話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2008/03/18(火) 12:00:00|
笑@会社
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