笑@会社

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女園秘書室-第141話-


悪党3人のそれぞれの思い。これまでの出来事。
誰のせいにもできない辛い思いを引きずって、誰かに同じ思いをさせるのは、
間違っているとは分かっていても、人間、弱いからなかなか正しく行動できない。
この3人が改心することを願った141話です。


第141話

阿東は、会社を自分のものにするということだけに必死になっていた。自分が会社をコントロールする
ことには関心がなかった。そこで、有能な有砂に近づき、会社を手中に収めた後のことは有砂に任
せ、自分は気楽に暮らすつもりでいたのだ。
社長が社長の座から失墜するようなスキャンダル的なものがないか、いつも目を光らせていた。その
うち、自分の妻を、社長宅に送り込み、私生活も監視するように仕向けてきた。

阿東の妻は、あるとき、いつもは厳重に閉ざされている社長の書斎のドアが開いていることに気付く。
何気なしに入ってみる。壁一面に本棚がくくりつけられていて、タイトルは難しいものばかり。
「つまらない部屋だわ」
と思ったものの、初めて入る部屋に興味を奪われて、本棚にそっと近寄った。
部屋の奥には、ほんのりピンク色にも見える厚みがある天板の木の机がおいてある。
「桜の木かしら」
表面を撫でてみる。撫でたところで、分かるわけもないのだが、以前訪ねたことのある店で一目ぼれ
した桜の木のテーブルに似ているような気がして、笑みまでもらしていた。
そして、テーブルの端に置かれた、「遺言」という言葉が書かれた白い紙に気付く。
手にとって見る。ザワザワと心が乱れて、背筋が震えた。
手に取っただけならまだ許される。でも、これを開けて、中を見てしまったら?
犯罪になるだろうか?
いや、黙っておけば分かるまい。
しかも、遺言などをこんなに人目につくところに置きっぱなしにしているほうが悪いのだ。
阿東の妻は、長く書かれた遺言を注意深く読みふけった。そして、元通りに折りたたむ。手が震えて、
遺言書は一度テーブルから落ちてしまった。それをまた拾い上げて、元あっただろう場所へ正しく返却
する。
一度知ってしまったことを、知らなかったことにするのはとても難しいことだ。そして、その罪悪感を持っ
たとき、相手に何かあったことを察知させてしまう可能性がある。
「何も知らない。何も見なかった」
早く阿東に連絡を取り、いま見た遺言の内容をすべて話して、自分は忘れる。それが一番だ。
社長宅では、何事もなかったかのように振舞った。
でも、阿東の妻は知らなかった。この部屋には、隠れた監視カメラが設置されていたこと。そして、社
長はわざとこの部屋のドアを開けておき、わざと遺言を机の上に置いておいたこと。阿東の妻を怪しん
だ社長が、考えた罠だった。
帰宅した社長が、監視カメラのビデオを回して、ため息をついたことも、彼女はもちろん知らずに、その
後も何食わぬ顔で社長宅に居座り続けていた。

自分は苦労したくない。お金をラクに手に入れたい。阿東と阿東の妻は、その気持ちが強かった。
一方有砂は、お金は副産物として考えていた。とにかく、会社を支配するということに執着していて、
それ以外に求めるものは特になかった。
誰かに指図されたり、命令されて動くのは腹立たしく、逆に自分がそれをおこなうのは優越感に浸れ
て嬉しかった。
家庭は、裕福で何不自由ない暮らしをしてきたが、両親の仲は最悪に悪かった。世間体を気にして、
離婚はしなかったけれど、たまたま家にいる時間が一緒になると、喧嘩が耐えなかった。それでも、
まだ喧嘩をしているほうが良かったのかもしれない。季節が何度か巡ると、今度は声すらしなくなっ
た。それは、もう関係が冷え切ってしまったということだ。喧嘩をすることすらない。そして、どちらも家
にいない日も続く。家の中から声が聞こえるはずがなかった。
父は、自分の会社も、母も、有砂のことも、すべてを支配しようとしていた。いつも父の言うことを聞き、
聞かなければ機嫌を損ねる父を、忌み嫌い、またそういった父に服従して何でも言うことを聞いていた
母に対しては、可哀想というよりは、腹立たしい思いを感じていた。
そして、そういう人になりたくないという思いが強くなればなるほど、有砂はそういう人間に近づいてい
った。
途中、自分でも、このままでは父のようになってしまう、と不安を持っていた。しかし、人を支配するこ
との優越感に陶酔し、性格を直そうという気持ちを持つこと自体がバカらしくなっていた。

三人は、それぞれ思い思いに、話したのだという。
樹里が有砂の頬を叩き、「腐ってる」と言い放ったこと。
それが、有砂の気持ちや考えを変えたのだろうか。
だとしたら、もっと早くに近くにいた誰かが忠告すべきだっただろう。
「あいつは、変われるのかね?」
桃子は、大まかな話のあとに、ぽつんとつぶやいた。
樹里は、何も答えることなく、ただぼんやりと窓の向こうの空を眺めていた。

-第142話へ続く-

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/03/16(日) 08:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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