意外な接点、小夜子と社長宅の使用人。
そこでも小さなバトル勃発。
そして、社長と桃子は仲間割れの危機に?!
本当に一人で戦うのか、桃子?!
第135話かつては小夜子の邸宅で使用人として働き、金をくすねたのが明るみに出て解雇された女、清香。
桃子がかつて会ったときは、穏やかで優しそうな顔をしていたのに、いまは表情を一変させている。
それでも、こう四人もの人間に囲まれては、大人しくしておくのが賢明だろう。ピストルやナイフなどを
持っているならまた違ってくるけれど。
「吠えちゃいけないよ」
桃子は、脅すような低い声を出し、清香に迫る。
「あんた、オンナ阿東に何か言われていたんだろ?」
清香が歯をギシギシさせて、苛立っている様子が分かる。それは、何かあったことを認めた証拠だ。
フン。鼻息を荒くしただけで、清香は何も言わない。
桃子は、次第に疲れてきていた。面倒なやつらばかりだ。騙したり、騙されたり。傷ついたり、傷つけ
たり。世の中、金が絡むとろくなことはない。生活ができる金と、ちょっとの余裕があれば、それでいい
んだな。桃子は改めて感じていた。
かつて、警備員だった頃の給料の倍はもらうようになり、確かに生活は潤うだろう。でも、心はどうなん
だ?争いごとに巻き込まれ、始終金持ちのバカヤロウに振り回されている。心穏やかな日々を過ごし
ていない自分にうんざりしてきている。
何が一番大事なのか。自分は人生で何を成し遂げたくて、何を目標に生きるのか。
最近考えるテーマは重い。
金はあればあるだけいいと思っていた。金に困らないと言うことは、人の生活を潤わせてくれると思っ
ていたからだ。でも…。
こいつらを見ていると、普通が一番だと思えてくる。
争いのない穏やかな日々。馬鹿笑いをして、酒を酌み交わす。もちろん仕事はキチンと真面目にが前
提だ。
無駄な時間を過ごしているなぁと思う。
こんなことばかりしていて、給料をもらえるなんて、ちょっと間違っているだろ?
まだ四人で清香を囲う。そして、清香もうんともすんとも言わず黙りこくっている。
「えぇい、もう面倒くさい」
桃子は、社長に向かって言った。
「その鍵をちょっと拝借したいんだけど。あたしが入ったら、外から鍵を閉めて」
何をしようというのか。そういった目で全員が見る。
社長は何も言わずに、桃子に鍵を手渡す。信頼している証拠だろう。
「きみたち、意外に力持ちだからね。彼女がどこにもいかないように見張っていてくれよ」
樹里と小夜子に言い残して、社長は桃子の後ろをついていく。
「どっちが偉いんだか分からないわね」
樹里が笑う。
「でも、社長のおっしゃるとおり、桃子さんはいい相棒なんでしょうね」
小夜子の顔は、引きつった笑いだった。
それはそうだろう。笑いたいけど、笑えない事情。なんといっても、自分の屋敷で泥棒を働いて逃げて
しまった女が、目と鼻の先にいるのだから。
小夜子は、いらいらしていた。
樹里にもそれは伝わって、ピリッとした空気が流れる。
「おりゃっ」
急に構えたと思ったら、小夜子は阿東の妻を倒したときと同じように、清香に向かってチョップをくりだ
していた。白目をむいて、ソファに倒れこむ清香。
「それ、ものすごい武器ね。小夜子さん」
見た目は、ガリガリで貧弱にすら見える小夜子を、あいつなら大丈夫だと襲う人は、予想もしないほど
手痛い仕返しをされることになるのだ。
一方、桃子と社長は、例の部屋の前に立った。
「この部屋には、電気がない」
社長は手を腰に当てて、何か得意げだ。
「閉じ込められた人間は恐怖を味わうのだ」
そうか、そうか。
桃子は、三人が、特に有砂が恐怖に震えるのを想像して、笑った。
あの女だけは、どうしても好きになれないのだ。
暗闇ねぇ。あたしは好きじゃないね。黒か白かっていったら、白が好きさ。
などと、いったんは関係のないことを考えて、そして、
「うぉっ」
と、奇妙な声を発した。
「社長、バッカだなぁ」
バカといわれて、さすがに社長もムッとしている。
「だって、相手はずっと暗闇の中にいて、目が慣れているだろ?あたしたち、いまここで部屋の中に入
ったって、急に暗いところに入ったら、誰がどこにいるか分からないぜ。明らかに、あたしたちって不利
だろ?」
桃子は、どうだ?と言わんばかりに、説明をしてみせる。
「そうか」
いまさらながら気付いたと言いたげな社長。だが、次の瞬間に、
「あたしたちが入るんじゃなくて、あたしが入るんだろ?不利なのは花木さんだけであって、わたしは
なんのことやら」
と、逃げ腰になってしまっていた。
-第136話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2008/03/04(火) 12:00:00|
笑@会社
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