騙し、騙され。
この世はそれの繰り返し?
正直者が損をする?うまく、騙した者が勝つ?
桃子は、そんなことを許しません。
いい間違えや、勘違いで笑われたっていいのです!正義は勝つ♪
第131話三人で社長の顔を覗き込む。
すると、突然パカッと社長の目が開いた。
ニヤリと笑う桃子と社長。
わけがわからず、二人の顔を見比べる樹里と小夜子。
「何か、知っていたんですか?桃子さん」
樹里の釣りあがった目。
先ほど桃子が阿東を倒したとき、有砂と阿東の妻は唖然として桃子を見つめていた。その二
人の後ろにあるベッドに寝かされていた社長が、目を開けたのを見たのだ。社長は有砂たち
に気付かれないように一瞬だけ首を動かした。桃子は目が合った。
ほんの少し動揺したけれど、社長がまた知らん振りをして寝入った振りをしたので、桃子は真
面目な顔をなんとか崩さずに、有砂や阿東の妻にかかっていくことができたのだ。
「突然、阿東くんとそれが来てね」
社長は、体を起こしながら有砂に視線を落とす。
「それ」とは有砂のことだ。男女の関係があった彼女を、普段呼んでいた名前をここで言うの
は気が引けたのだろうか。
「わたしが驚いている隙に、今度は阿東くんの嫁さんが後ろから布のようなもので、わたしの
鼻と口を塞いだ」
社長は、自ら手で鼻と口を塞ぎ、苦しそうな顔をしてみせた。
「よくあるあれか?」
桃子が、社長に向かって平気でタメ口をきき、樹里と小夜子は目を真ん丸くさせて唖然とした
表情になっていた。社長は、まったく気にも留めない様子で、桃子のほうを見ると、その通りと
いって、人差し指を天井に向けた。
「なんだっけな。クロロロ…」
樹里が呆れたように笑い、
「クロロホルムだと思いますよ」
と、桃子に耳打ちした。
「わたしは、とっさに息を止めた。そして、限界まで我慢してから気を失った振りをしたのだよ」
得意げな顔に、桃子は、
「よっ、社長」
などと、掛け声をかける。
社長もまんざらではない様子で、片手を高々上げて、手を振る。
まるで、選挙カーから身を乗り出す勢いで手を振っている候補者のように見えた。
「わたしも勝手なことをしてきたが、彼らも随分なことをしてきたものだ」
社長は立ち上がる。
「社長は、阿東の嫁に騙されたのかよ」
桃子はふくれっ面で、社長の前に立ちはだかる。
樹里が心臓に手を当てている。社長に対する桃子の姿勢に、心臓が爆音を立てているに違い
ない。
「うちに来て一ヶ月ほど経ったとき、彼女がタンスを開けて、何かを必死に探しているのを見か
けてね。それからは、疑ったよ。ただ、こっちも疑っていると思われてはいけない。疑っていな
い振りをして、そこら中に監視カメラをつけたのだよ」
社長は、部屋の片隅に向かって手を振ってみせた。
桃子、樹里、小夜子の三人は、その方向に視線を向ける。
どこにカメラがあるのやら、さっぱり分からなかった。
時々、テレビのニュース番組などで見る機会がある盗撮の機械や盗聴器などは、小さいのに
精巧にできている。普通に生活していたら、気づきやしない。
目を凝らしても、それがどこにあるのか、桃子には分からなかった。そのうち、大きく見開いた
目は、乾燥し、痛くなって、慌てて何度も瞬きを繰り返した。
「彼女が探していたものが、何か分かるかい?花木さん」
社長の問いかけに、桃子は胸を張って答える。
「あれだよ、社長。遺書」
得意げに笑みを浮かべる桃子だったが、明らかに間違えている。遺書とは、たいがいが自殺
する人が書くものであり、死ぬ理由などが書かれた書だ。
桃子が本来言いたかったであろう遺言は、自分が死んだあとに、争いごとなどが起こらぬよう
に、遺産の分配についてや相続についてなど、法的内容を含んだ書である。
遺言など書く必要がない普通の家に育った桃子は、得意顔だ。眉根をひそめて、難しい顔をし
ているのは、自分が難問に取り組んでいる様を見せたいのだろう。そして、遺言を書いておか
ないと、気が気でないほど資産たっぷりの家の住人である社長と樹里は、「遺書」という言葉
に大笑いした。小夜子も、唇をかみしめ、笑いをこらえている。
「なんだよ、なんだよ」
一人意味の分かっていない桃子だけが、頬を膨らませていた。
-第132話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2008/02/25(月) 12:00:00|
笑@会社
| トラックバック:1
-
| コメント:4