何かが起こっているような社長宅。
桃子、一度だけ来た屋敷にどうどうと勝手に進入中!!
阿東の嫁は、何かを企んでいる?!
広い屋敷の静かな時間。三人家捜し中の第128話。
第128話社長の自宅に着いた。
勢い良く「社長の家に行くぞ」と宣言しておきながら、桃子はタクシーの運転手に、その場所を
説明することができなかった。樹里が鍵のかかった丈夫そうな手帳を取り出し、ページをめくる。
「樹里さんにしては、いまどきレトロじゃねぇの?」
樹里のことだから、電子辞書とか、桃子の想像の範囲を超えたハイテクな機器を取り出すの
ではないかと思ったのだ。
樹里はニコリと笑っただけで、何も言わなかった。
社長の家は静まり返っている。広大な敷地なので、どこか一画で騒いでいたとしても、それが
敷地の入り口に聞こえてくることもないのだろう。門扉は開いていて、三人は勝手に中に入
り、玄関までやってきた。
社長と一緒にここに来たときは、この広い屋敷に驚きのあまり気付きもしなかったが、監視カ
メラが動いている。しかも、人を認識しているようで、動くたびにカメラも動くのである。桃子
は、それに向かって手を振り、
「社長、いるのかい?」
と話しかけて、樹里をひやひやさせた。
「桃子さん、なんて口の利き方を」
「あ?あぁ、いいんだよ。あたしはさ、ほら」
言葉に詰まったのは、樹里が会社を辞めるつもりでいるのを思い出したからだった。自分まで
辞めるつもりでいるとは言えなかった。
「どんな理由にしても良くないですよ」
樹里は、少しだけ真剣な顔をしている。まいったな。別にいいんだよ。あたしと社長は、もうた
だの社長と秘書じゃないんだ。そんな言い方は御幣があるかもしれないが、あたしはもうあの
会社にいるつもりはないんだ。その代わり、とことん真剣に向き合って、社長と対等に話をす
ると決めたんだ。
「分かったよ」
桃子は、それだけ言って、樹里の目の前で手をひらひらと振って見せた。
監視カメラで様子を伺っていたのか、インターホンを使って中から玄関に向かって女性が話し
かけてきた。
「どのようなご用件でしょうか」
あの女だ。
桃子には、ピンときていた。先ほど、社長とその女を交えて三人で話をしたばかりだった。
熱くならない。熱くならない。落ち着け、あたし。
桃子は、三度深呼吸をして言った。
「社長に言い忘れたことがあってさ。あんた、阿東室長の奥さんだよな?あたし、さっきまで一
緒にいた、花木桃子だよ」
ドア越しに、大きな声で話しかける。
ガー、ガー。
耳がガリガリして痛むような音が聞こえたかと思うと、ドアフォンは切れたようだった。
きっと、自宅内にある電話機の受話器を置いたのだろう。
玄関を開けてくれるものと思い、三人は待った。何秒も、何分も。
「いくら広い家でも、待たせすぎじゃないですか?」
樹里が言う。小夜子は、一言も発しなかったけれど、うなづいて玄関のドアノブに手をかけた。
「開きました」
振り向いた小夜子の顔は、不安げだ。
「変だぞ」
中から返事はあった。返事をしてくれた主は、あの阿東の妻だった。返事をしたのに、なぜ迎
えに出てこない?
来ないなら、出向くまでか。
桃子は、先頭を切って、玄関に入ると、
「失礼します」
大声で言って、靴を脱いで家の中へあがりこむ。脱いだ靴は、樹里が丁寧に直している。まる
で、夫の靴を直す殊勝な妻という姿だ。
桃子はおかまいなしに、すたすたと廊下を進む。一つ扉を通り過ぎるたびに、
「すみませーん。おじゃましてます」
と声をかけていく。
樹里と小夜子は、小走りに廊下を駆け、桃子の後ろにピッタリとくっついた。
この二人、少し怖いのかもしれない。
何か起こっていなければいいけれど。
社長と阿東の妻。
それにしても、他の家政婦はどこへ消えてしまったのだろう。
コトン。
通り過ぎた扉の向こう側から、音がした。
それは、机などに物がぶつかったような音だった。
-第129話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2008/02/19(火) 12:00:00|
笑@会社
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