またしても新たな女登場。
彼女によって、阿東がどうなっていくかが変わってきます。
樹里たちの味方になるのか、阿東への忠誠心を守るのか?!
分かれ目の第120話です。
第120話二人は、一旦医務室に戻った。
そこには、桃子の見知らぬ女が座っていた。少し年配で、メガネをかけ、やせこけている。
また新しい人間がどこからともなくやってきた。
新たな人物の出現は、桃子を悩ませる。ごちゃごちゃとした人間関係を得意としていないの
に、今以上に誰かが絡んできたら、もうこの人間関係は一生解決できなそうに思える。すぐに
でも両手を挙げて、逃げ出してやろう。
ただし、阿東と樹里のことはどうしても決着をつけなければならない。この新しい女がまた阿
東と絡んでいなければいいのだが。
桃子の心配は、この後見事に的中してしまうことになった。
「彼女、経理部の赤城さん」
樹里が前に押しやった女は、細くて折れそうな体つきだ。青白い顔をしていて、体調が優れな
いように見える。目はどことなく虚ろで、焦点が合っていないかのようだ。
「わたしは、どっちでもいいのよ。でも、あなたがここで正直に言わなかったら、マスコミに向け
て内部告発するわ」
樹里が、赤城という女に向かって、強い口調で言った。
桃子と一緒に秘書室を飛び出した二人の秘書も、赤城という女を囲む。
誰もが腕を胸の前で組み、表情は固い。
逃げ出したいのか、ドアのほうをチラチラと見る女に向かって樹里は、背中を叩いて一歩前に
押し出した。桃子と女の距離がグンと縮まる。
女はおびえた表情になり、肩を震わせた。
それは次第に体全体に移り、樹里が横から支えてようやく立っていられる状態にまでなってし
まった。
ベッドの上に座らせ、居合わせたみんなが女を囲む。
「ごめんなさい」
もう顔を上げられないのだろう。首をガクッと折って、意気消沈した様子で、やっと声を絞り出
したというような、かすれた小さな声だった。
「もう、全部知っているのよ。調べはついているんだから。あなたが話さないなら、わたしが話す」
樹里が、珍しく鼻息粗くまくし立てる。
痛いほどの沈黙が流れる。医務室特有の薬の匂いが、鼻を刺激する。息を飲み込む音が、妙
に大きく、息を殺すとむせる。
たった数十秒の出来事だっただろうが、樹里はそれを我慢することができなかった。
「あなたは、阿東さんに頼まれて、会社のお金を使い込んでいるわね。経理部長の目だって
節穴じゃないのよ。半年ほど前から、調べていたの。そのお金の使い道とか、誰が仲間かと
か、ね。あなたはお金をどうやって使い込もうかと必死だった。そういうときは、周りの目をもっ
と気にすることよ」
樹里は、ジャケットのポケットから数枚の写真を取り出して、ベッドの上に置いた。
女の目が泳ぐ。
桃子は、一番上の写真を手にとって眺めた。
阿東と、いま目の前にいる経理部の女が、ホテルから仲良く出てくるところの写真だった。
何枚取ってみても、阿東と仲の良い姿が写真に収められている。
中には、秘書室での写真もあった。
「阿東ってすげーな」
もちろん声には出さなかったが、桃子は、なんとなく感心してしまっていた。
有砂は、阿東の将来性などを見込んで付き合っているのだろうけど、この女は本気なのだ。
樹里に関しては、いまとなっては過去の話だが、本気だったのだ。そこまで魅力があるのだろ
うか。
「付き合ってみたいとは思わねぇけどな」
まだ秘書室に勤務する前、社長を刺そうとした男を取り押さえ、怪我をおって病院に行った。
そのとき、突如桃子の病室に現れた阿東は、冷たくて何を考えているのか分からない男に見
えた。たいていの人間は、人の考えていることなどおよそ分かるわけもないが、こと、阿東に
関しては危険な匂いがするという意味で、分からない男だと感じた。
それが、女を虜にする?冗談じゃ、ないぜ。
樹里が騙されていたことを思うと、無性に腹が立つ。桃子は、手に持った写真を握りつぶしそ
うになり、樹里に止められた。
なんだよ、こいつ。まだ阿東のこと諦められねぇのか。
桃子の呆れ顔に、樹里からの冷たい一言が降りかかる。
「桃子さん、何か熱くなっているようですが、それは横領の証拠となるかもしれない写真です
ので、くれぐれも潰さないようにしてくださいね」
あ、そうか。
「アハハハハ」
笑って気を抜いた桃子の指から、するりと写真が落ちる。
それは、ひらひらと回転することなく、するりと赤城という経理の女の足元に落ちる。すかさず
女がその写真を靴で踏む。が、樹里が行儀悪く、足元を弾いてその写真を拾い上げた。
「反省していないようだね」
樹里が、いままでになく低くドスの効いた声で言い放った。屋内にも関わらず、土砂降りの雨
の中、雷が落ちてきそうな雰囲気に包まれた。
-第121話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2008/02/02(土) 08:00:00|
笑@会社
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