女のわたしが言うのもなんですが、女の勘って怖いです。
十中八九当たってるんですもの…。
桃子には、それがないようですが、彼女には野生の勘が働いているので、
それで我慢していただきましょう^^大丈夫よ、桃子、ちゃんと女だから。
第117話樹里と別れたのは、日曜日の夕方。つまり昨日の夕方だ。別れ際は、弱っていた。それもそ
のはずだ。流産したばかりだったのだから。辛かったに違いない。できれば近くにいてやりた
い。そう思っても、しなかったのは、一人になって悲しみを爆発させたほうが良いだろうと思っ
たからだった。誰かがいると、樹里は気を遣ってしまう。そういう女だ。
ようやく他人に対して心を開き始めたばかりの彼女が、心から感情をさらけ出すようになるのは、
当分先の話だろう。
樹里と別れてまだ一日も経っていない。にも関わらず、先ほど医務室に入ってきた樹里は、か
なり晴れ晴れとした顔つきだった。それが何故だか分からないまま、阿東の話になり、樹里は
また気分を害してしまうこととなったが、それもつかの間だった。
「わたし、なんとなく感じていたんです。理子さんと食事している最中に。この人、わたしとつな
がっているって。どうして?と聞かれると答えられないのですが」
そんな曖昧な話があるのか?
桃子は、首をカクカクと何段階かに分けて、肩に近づけるように傾けた。
それとも、やはり彼女は何かしら普通の人間にはない特殊な能力を持っているのだろうか。
桃子は、数日前に自分の身に起こった出来事を思い出していた。
知りもしない樹里の過去が、頭の中にパッと広がったこと。そしてそれが真実として彼女の口
から語られたこと。テレパシーというのだろうか。強い思念が桃子に送られてきたのだろうか。
「本当に…なんとなく感じたんです」
もう一度樹里は繰り返した。
昨日、夕方から一人になった樹里の元へ、父親が帰ってきた。
疲れ果て、酷く老け込んでしまったような樹里の顔を見て、父親は、
「何があったんだい?話してごらん」
優しく問いかけたと言う。これまで、樹里の話に耳を傾けることなど一度もしなかった父が、初
めて親らしく接してきた。
樹里は、何もかも話してしまいたくなっていた。隠し事や嘘は、うんざりだという気持ちでいっ
ぱいになっていた。
阿東のこと、会社でのこと、赤ちゃんのこと。
何を言われても、平手打ちをもらったとしてもかまわなかった。とにかく、胸に引っかかる何か
を全て吐き出してしまいたかった。
心の動くまま、始めはポツポツと。次第に早口になって、これまで起こったことを順に話してい
った。その中で、桃子にだいぶ救われていることや、桃子の先輩でもある理子にも励ましても
らったこと。そして、何か感じていた理子とのつながりまで話していた。
「父がね、理子さんの名前を出した瞬間に、息を呑んだの。ものすごい大きな音でね。呼吸困
難にでもなったのかと思ったわ」
そのときのことを思い出したのか、樹里は背中を震わせて笑った。
「安藤理子」
そうつぶやいて、彼はため息をついたという。
そして、上着のポケットから携帯電話を取り出すと、ボタンを押し、耳につけた。
「あぁ、実は話したいことがあってね。いまから住所を言うから、そこまで来てくれないか?」
話はすぐにまとまったようで、電話の相手は、すぐに福井邸にやってくると約束したという。
それから一時間後。
外で車が止まる音が聞こえてきた。閑静な住宅街のため、重厚な造りのこの家でも外の音が
微かに響く。
よく通る女性の声。まだ暑さが残っていたこの日、リビングのドアが僅かに開いていたせいも
あるだろう。
「ありがとねー」
明るくテンションの高い声に、樹里は思わず立ち上がった。
聞いたことのある声。すぐに理子の顔が浮かんできた。
そっと父親の顔を見つめると、彼は照れながら微笑んでいた。
「そ、その顔は…?もしやって思ったの」
樹里が、頬を赤く染めて桃子に視線を投げかけてきた。
「もしやって、なにかい?理子さんがお父さんの恋愛相手って思ったとか?」
「そう。だって、父が照れる顔なんて、今まで見たことなかったですし。父が浮気しているかも
しれないということより、理子さんとわたしが父親違いの姉妹かもしれないという自分の感覚
が外れたかもと、最初はがっかりしたんです」
不思議な感覚を持つものなのだな。
女の勘は鋭いというが、それなのだろうか。
あたしには、それがない。あたしは、男なのか?
「理子さんが玄関に立っていて、向かい合った瞬間、やっぱり思いました。わたしたち、姉妹
だって。それは、理子さんも同じだったようです」
樹里の顔は、この青空のように晴れ晴れとしている。
-第118話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2008/01/27(日) 08:00:00|
笑@会社
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