笑@会社

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女園秘書室-第113話-


ほとんど仕事をしていない桃子。
会社に戻っても、今度はどこへ引っ張り出されるやら。
大忙しの第113話です。


第113話

秘書室のフロアに降り立った
殺人未遂を犯すような男には、堂々と立ち向かっていけるのに、相手が狡賢い女となるとやけ
に緊張する。心臓は高鳴り、今にも喉を通って飛び出してきそうだ。
一歩ずつ歩を進めて、ドアの前に立った。
中からは、時折、パチパチというパソコンのキーボードを弾く音だけが聞こえる。
中にいるのは誰だろう。
桃子の頭の中には、もう阿東と有砂しか思い浮かんでこない。
社長が出かけているとあれば、阿東はともかく、有砂など用事がない。デスクにいるしかない
のだ。
「奴はいるか」
桃子は、自分の想像が当たらないように祈ってみたが、それはうまくいきそうにもなかった。
ドアを開けると、入り口付近に三人が座っていた。
一番入り口近くに座っていた榛原未来の机の上は、塵一つないほどきれいに片付けられてい
る。有砂の視線を遠くから感じながら、自分の席へ近づく。
桃子の隣は、榛原未来の物で埋め尽くされていた。まだ片付けていない数々の持ち物に、彼
女の名前が記してあった。持ち物に名前を書くなど、小学生のようだ。小さい未来を思い、自
然と笑みがこぼれた。
あいつは、多分大丈夫だ。あのダークな色には染まらないだろう。染まりそうになったとして
も、あたしが阻止してやる。

椅子に座る直前に、向かいの席に目をやった。
そ知らぬ顔で、キーボードを打ち続けている有砂がそこにはいる。
今にも口笛を吹きだしそうな、軽快な雰囲気があった。何を思ってか、時折笑みを浮かべてい
る。パソコンのモニターに向かって、眉をピクッと吊り上げて笑う様は、まるで悪魔のように見
えた。
何が楽しいのだろう。
人が嫌がることをし、人を平気で陥れる。
桃子はゆっくりと席についた。
会社の椅子は、社長の庭の石のもののように頑丈ではない。
パソコンの電源を入れると、ブーンと音が鳴る。この音を聞いていると、頭が痛くなってくる。じ
んじんと頭の中に嫌に響く音。
それが終わると、画面いっぱいに青空が広がる。桃子の画面の壁紙は、最初の設定時のま
まだ。それを自分好みのものに変更できるなど、まだ知らない。

まずは、メールソフトを立ち上げてみた。休みを取っている間だけでも、だいぶ溜まっているに
違いない。パソコンが勝手にメールを次々と受信してくれるのを、ぼんやりと眺めていた。
サッ。
目の前で、有砂が動いた。桃子のほうをチラリと見やると、ドアへ向かって歩いていく。そし
て、最後にもう一度目が合った。
ニヤリと笑って、有砂は部屋を出て行った。
出入り口付近に座る三人の女が、一斉に桃子を見つめる。
そこにいる全員が、困った顔をしているように見えた。なにか、助けを求めるような、そんな空
気が流れてくる。
「大丈夫」
彼女たちに向かって、ニヤッと白い歯を見せてみた。
すると、一人が立ち上がって、ドアを数センチ開けた。廊下の様子を伺い、右手の親指と人差
し指で丸印を作る。残りの二人が立ち上がり、桃子を手招きする。
「なにやってんだ?」
普通の声を出していたつもりなのに、女三人は一斉に口元に手を当てて、「シーッ」と言った。
まるで、躾けられている最中の犬のようである。
「あいつに内緒なのか」
桃子は、やれやれといったような顔をして、三人に近づく。
最初に廊下を覗いていた女と一緒に、廊下の様子を見てみる。
誰もいないようだ。
「大丈夫です。さっき、エレベーターが下がっていきましたから。有砂さん、どこかへ行ったの
だと思います」
一旦顔を引っ込める。三人プラス桃子は、円陣を組むような形で立っていた。三人が顔を見合
わせて、頷く。
桃子は、わけも分からないのに、分かったような振りをして、大きく頷いた。
「ぷっ」
一人が桃子の真剣そうな目を見て笑う。
「なんだよ」
まだ会話も交わしたことがない女に笑われて、桃子はふてくされた顔をみせた。
「いえ。樹里さんの言うとおりの方だと思って」
そうつぶやいてから、
「行きますよ」
桃子の手を取った。
三人を真似て頷いた割には、どこへ連れ出されるのか分からずに、目を白黒させながら秘書
室を飛び出していた。

-第114話へ続く-

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/01/19(土) 08:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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