笑@会社

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女園秘書室-第110話-


社長泡吹く1話前。何が起こっても、桃子はGoing my way♪
そんな二人の行く末は…?


第110話

どうなってもいい。
他人が傷つこうが、どういう人生に至ってしまおうが、わが道を行く。
社長は、そういう人間だと思っていた。
実際にそうじゃなかっただろうか。
有砂や樹里を利用し情報を得ようとしたり、お金を使って何か企んだこともあるだろう。
朝カフェで会った西井という男に対しても、冷たい態度だった。
死にそうだ。
そう分かっていても、「勝手にどうぞ」という態度だった。

「疲れたよ」
社長は苦笑いをしながら、桃子をちらりと見上げた。
桃子の頭上遥か彼方から放たれる太陽の光がまぶしかったのか、目を細める。
「あ?」
どういう意味なんだ?
桃子は、そういう意味を込めて、たったの一言だけ発した。
「きみと話すのは、実に楽しい。その言葉遣いも腹立たしい反面、言っていることは的を得て
いて理解できる。でもね、疲れたんだ」
社長は、水っぽくなった珈琲を口に入れる。それは、もはや味を楽しむためのものではなく、
のどの渇きを潤すためだけのものに変わっていた。
「さっきも言ったが、わたしはこれまで人の気持ちという部分に入っていくことはしなかった。慈
悲もかけない、同情もしない。自分に利益があり、自分が豊かになれば、関わった人たちがど
うなろうが知ったことではないと。人間的な部分を無視してきた」
ぶら下げた手が、ちょうど石のテーブルに触り、桃子は角の部分を何度も指で弾いた。

「きみと話をしていると、時々おかしくなるんだ」
社長は、頭を抱えた。
「きみのその真っ直ぐな瞳。物の言い方。目上の者に対しても、物怖じしない態度。きみと接
していると、自分はずいぶんと歪んだ考え方で、自分の生き方が間違っていたのではないか
と混乱する」
桃子は、再び冷えた石の椅子に座る。
どっしりと力を込めて座っても、木やパイプの椅子のようにキィキィした音を立てることはない。
それに気付いたとき、桃子はこれを、「冷たくて嫌な椅子」から「丈夫で安心、好きな椅子」と、
頭の中で勝手に名付けていた。ものすごい勢いで腰を下ろしても、何の音もしないので、顔を
伏せている社長は、桃子の顔が目の前にあることを知らない。

桃子は思い切って、声をかけてみる。
「あのさ」
社長は、身動き一つしない。
ふぅぅぅ。
ものすごい大きなため息を一つつき、桃子は言った。
「あたしは、誰の生き方も否定しないよ。だいたい、人のことどうこう言えるほど、自分ができ
ちゃいないしね。ただ、一つ言いたいのは、人をおとしめるなってことさ。あたしは、そんな人
間が嫌いなんだ。自分勝手で、人の気持ちを考えないことがね。ついでに言っておくと…」
今度は大きく息を吸う。お腹が膨らんで、スカートのボタンが弾けそうになる。ミシッという不吉
な音が、耳に届いた。一瞬、腰回りが緩んだような気がして、腰のあたりに手を当てる。スカ
ートが落ちるかもしれない。それでも、話したいことはあるんだ。桃子は、正義の味方にでもな
ったような気分で、続けた。
「人を使って、こそこそするのはもっと嫌いだ。知りたきゃ、自分でやる。人にリスクを背負わせ
るなら、自分も覚悟を決めることだ」

今の台詞、決まったな。
ビシッと言い終わると同時に、桃子はまた立ち上がっていた。わけも分からず、興奮してい
た。そして、桃子は、自分に酔いしれていた。
鼓動が高鳴る。スカートを抑えていた左手を、胸にそっと当てた。
桃子に諭された格好となった社長は、テーブルの上に視線を這わせて、一向に顔を上げよう
としない。軽いため息を何度もついているさまは、まるで病気にでもかかって、苦しんでいるか
のように見えた。
それでも、数秒後、社長が頭をかきむしりながら、顔を上げる。
そこには、下半身下着一枚の桃子が、得意げな顔で立っていた。
「うぁぁぁ」
社長の悲鳴にも近い声が、庭全体に響き渡る。

-第111話へ続く-

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2008/01/13(日) 08:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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