笑@会社

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桃子、愛を食べる 第2話

主な登場人物

花木桃子
デーンとした大きな体に、肝っ玉のすっきりあっさりした性格。三十を超えても独身を貫いている
が、独身でいたいわけでもなさそう?!体育以外に得意科目はなく、体力勝負で抜擢された社
長秘書での仕事は四苦八苦。日本語以外は全部英語だと思っている可愛い面も。

福井樹里
才女であり、美人。天から二物以上の物を与えられた女性。生まれも育ちも複雑で、最近までは
いい環境に身をおいていなかったものの、桃子と出会い、前向きに進む勇気を与えられ希望を見
出している。

アンドリュー・グリーン
イギリスのグリーンジュエリーの跡取り息子。代々伝わる秘宝の赤く輝く石を狙われ、行方不明に。
もうすぐ三十路の容姿端麗で、頭もいい男。


[桃子、愛を食べる 第2話 -謎の球体-]

すると、どうしたことであろう。その場所から遠のけば遠のくほど、ビービーという音は、大きく
なる。桃子の足元で鳴っているかのように大きく聞こえるのである。
振り返る。缶がぶつかった辺りに、片手に収まる大きさほどのボールのような球体が見えた。
それが、赤く点滅した数秒後に、今度は緑に点滅する。クリスマスの装飾品のように見えた。
どこかから落ちてきたのだろうか。
周囲を見回すが、ツリーは見当たらなかった。
知るか。
桃子はまた歩き出す。
すると、今度は、なにやら言葉を発した。
「んあ?」
もう一度その球体に近づいていく。その声は、人間の声だったが、残念ながら桃子には理解
できなかった。日本語ではなかったのだ。
「ヘルプ」
という最初の一言は、理解できた。その次には、もう何を言っているのか、分からなくなる。
息継ぎをしないで、よくそこまでペラペラと喋れるものだと思うほど、延々と何かを言っている。
その間も、球体は赤、緑と点滅を繰り返す。
そして今度は、桃子が少し遠ざかろうとするものなら、
「ヘルプ」
と、叫ぶ始末だ。
どうしたものだ。桃子は、アスファルトの上に転がっているそれをまじまじと見つめた。道路に
顔を押し付けると、氷のように冷たくて驚く。
「んあ?」
もう一度言うと、桃子は球体の真ん中に目を向けた。小さい鏡のようなものが光っている。指
で触ってみた。
なんとか、かんとか。
再び球体が喋りだす。手にとって、目を凝らしてよく見ると、カメラのレンズのようなものがはめ
こまれている。これで、人が近くにいるのを見て、何らかの方法で話しかけているのだろうが、
桃子がそれを知る由はない。
面白いな、これ。ただの装飾品ではなさそうだ。
レンズをまじまじと眺めている。相手には、桃子の顔の一部がクローズアップされて見えてい
て、さぞ驚いていることだろう。
それでも、球体の中からする声は、何かを話し続けている。
あまりにも鬱陶しくなった桃子は、大声で一言、
「うるさい」
と言うと、今度は小声で、
「あいつしかいねぇな」
とつぶやいて携帯電話を取り出した。

「暇?って聞かれるの、今日は嫌な感じだろうけど、暇?」
クリスマスイブに暇。
それがどうしたというのだ?と、自分では思う。けれど、世間はそうは見てくれない。
寂しい奴。可愛そうな奴。
そんな風に思われるのだ。
「ま、どっちでもいいけど」
そんなことはどこ吹く風の桃子は、平然としていたが、電話の相手は気を悪くするかもしれな
いので、気を遣う。
「暇なわけないじゃないですか」
相手が一瞬深いため息をついて、あきれたような声を出したので、桃子は戸惑った。
まだまだこいつ相手には、どう話しかけたら良いか気を遣うな。
だいぶ仲良くなったつもりの電話の相手だったが、まだしっくりいかないときもある。
「と、言いたいところですが、実は暇です。たったいま、暇になりました」
電話の向こうから、笑い声と同時に、風の音だろうか、ときおり「ササササ」という音がして、
桃子の耳を駆け抜ける。
「合流しようぜ。面白いものを見つけたんだ。そして、あんたがいないとお手上げの品物さ、樹
里さん」
誰も見ていないのに、桃子は、口の右端を上げて、ニヤッと笑ってみせたのだった。
「決まったな。今の台詞」
電話を切ってから、一人ほくそ笑む桃子であった。


**第3話は明日24日午後9時更新。お楽しみに**


テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

    2007/12/23(日) 21:00:30| 笑@会社 | トラックバック:0
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桃子、愛を食べる 第1話

主な登場人物

花木桃子
デーンとした大きな体に、肝っ玉のすっきりあっさりした性格。三十を超えても独身を貫いている
が、独身でいたいわけでもなさそう?!体育以外に得意科目はなく、体力勝負で抜擢された社
長秘書での仕事は四苦八苦。日本語以外は全部英語だと思っている可愛い面も。

福井樹里
才女であり、美人。天から二物以上の物を与えられた女性。生まれも育ちも複雑で、最近までは
いい環境に身をおいていなかったものの、桃子と出会い、前向きに進む勇気を与えられ希望を見
出している。

アンドリュー・グリーン
イギリスのグリーンジュエリーの跡取り息子。代々伝わる秘宝の赤く輝く石を狙われ、行方不明に。
もうすぐ三十路の容姿端麗で、頭もいい男。


[桃子、愛を食べる 第1話 -クリスマスなんて祝わない-]

街がイルミネーションに覆われる。
赤や緑。
いや、間違いなく、赤「と」緑。
生きている限り、クリスマスはやってくる。
「別に、キリスト教徒ってやつでもないのにさ」
自分は、ずいぶんとひねくれた人間だ。桃子はそう思っている。
キリスト教徒でもないのに、クリスマスを祝うとか、十字のネックレスをつけるとか、そんなの
ご法度だと考えてしまうのだ。
「どうでもいいけど」
手のひらをすり合わせると、寒さが遠のいていく。でも、それもほんの一瞬だ。後には、赤くな
った手が、いっそう痛さを感じるだけだ。

どこから集まってきたのか、通りには人が溢れかえっている。
「クリスマスは明日だっていうのに」
桃子は、またぶつぶつと言った。
ここ最近、キリストの誕生である二十五日より、クリスマスイブの二十四日のほうが、本格的
に祝われている。
「信仰心がないんだから、いつだっていいのさ」
真っ直ぐに前を見て、人の群れをかきわけ、ただひたすら歩いていく。
そして見えてきたのは、赤い看板のラーメン屋だった。
普段は、何の飾り気のないラーメン屋。おじさんが一人でふらっと立ち寄るような店。仲間と連
れ立って楽しそうにしている人など、見たことがない店内。だからといって、暗いわけではな
い。旨いラーメンを一人すするときの優越感を感じられる店なのだ。
「だいたい」
桃子は思う。
ラーメンを食べているときなど、人と会話をしている時間はない。少しでも時間があくと、麺は
あっという間にのびて、鉢の中は嵩を増す。
だから、旨いラーメン屋に行くのは、一人でも寂しくはない。
「でも」
この日は、少しだけ寂しさを感じた。ラーメン屋の入り口のガラス窓に、白い粉でサンタクロー
スやとなかいの絵が描かれていたのだ。そして、メリークリスマスという文字。
光る装飾品。
「けっ、ラーメン屋までクリスマスかい」
そう文句を言いながらも、ガラス戸を開ける。もわっとした空気。白い煙は、水蒸気か、マイナ
スイオンの空気清浄機のように桃子に襲い掛かる。
その湯気の向こう側から、店主の精の出る声が響く。
「おぅ、桃ちゃん。なんだい、クリスマスに一人でラーメンかい」
子の字状のカウンターには、まばらだが十人弱の客が座っている。その面々が、夢中になっ
ていたラーメンどんぶりから一旦顔を上げる。桃子は、ほんの一瞬だけ、店内で注目を浴びる
ことになった。
客たちは、見てはいけないと思いつつ顔を上げ、そしてやっぱり見てはいけなかったと、慌て
てラーメンに集中する。
「ちぇっ、おっちゃん、クリスマスは明日だよ」
負け惜しみを大声で言ってみる。
そして、店内にいる客には頭の中で、
「おまえたちも同じだろ。こんな日に一人でラーメン食べるなら」
と問いかけた。

ラーメン屋は長居する場所ではない。
一杯のラーメンをすすると、桃子は十分足らずで店を後にした。
店内にいたのはほんの僅かな時間だったにも関わらず、その間に外はグンと冷え込んでい
た。周囲は楽しそうに腕を組んで歩くカップルや、相手がいない者たちで集まったのであろう
集団が騒いでいて、暖かそうに見えた。
「ちぇっ」
知らず知らずのうちに舌打ちをする。最近、それが癖になりつつあった。
もう何年彼氏と呼べる人がいないのだろう。指折り数えるのも面倒になってきた。
人の多い通りから外れて、わき道にそれる。どちらから歩いても自宅に帰る距離は変わらない。
「ちぇっ」
もう一度つぶやいて、ちょうど足元に転がっていた缶を蹴り飛ばした。
カランカラン。
夜空に突き抜けていくような爽快な音を立て、缶は暗がりへ転がっていった。缶が止まった先
は、ジュエリーショップだった。もう店は閉まっているというのに、ショーウィンドウは明かりが
つき、きらびやかなジュエリーたちがまばゆく輝きを放っていた。
「ビー、ビー」
缶が止まって、何かが音を立てる。
暗闇の向こうで、赤いランプが点滅し始めた。発光しているものの正体は、暗くてよく分からな
い。何かの警報機を押してしまったのだろうか。
「あたしは何にもしちゃいないぞ」
誰かに気付かれる前に、逃げてしまおう。
桃子は、そそくさと立ち去ろうとした。


**第2話は30秒後に更新です。続けてどうぞ**

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

    2007/12/23(日) 21:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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