とんでもない展開過ぎて、読み続けてきた人は誰もがビックリ?!
自問自答を繰り返し、やがては拳を握り締め…桃子の怒りパワー
炸裂とまいりましょう。
第102話「女房はね、わたしが知らない間に男を作っていた」
心が温まるような空間のカフェで、心が切り裂かれそうな言葉が発せられた。
社長は、自分が暗いことを言ったにも関わらず、
「そう、深刻な顔をするな」
と、桃子に笑いかけた。
「阿東くんだよ」
続いた言葉に、驚き、桃子は指でつまんでいたクッキーを押しつぶしてしまった。
パラパラと粉々になったクッキーが、トレーの上に落ちていく。
物を粗末にしない。大事に使う。出された食べ物は残さない。無駄にしない。
それが鉄則だったはずなのに、こうしてクッキー一枚が粉と化していても、桃子は申し訳ない
気持ちになれなかった。
「あと…阿東が、社長の奥さんの愛人?」
呼び捨てにしていることにすら気付かない。
「阿東が。阿東が」
桃子は、何度も繰り返し、阿東という名を呼んでいた。
社長は、顔を歪めて、不愉快そうな顔をする。
「あいつが女房の愛人だって?やめてくれ。年齢が離れすぎているだろう」
「じゃ、なんだよ?」
桃子は、中腰になって、社長に問い詰める。
「子供だ」
桃子は、固まって動けなくなった。
それほどまでに、気付かないものなのだろうか。
同じ屋根の下に暮らし、顔を合わせ、会話をしていたら、妊娠に気付かないわけがない。
ほとんど家に帰らなかったとは言え、妊娠などしていれば、お腹が膨らむので一目見て分か
るのではないだろうか。
でも、いまさらだ。
そんなことを言ったからといって、過去を清算できるわけではない。
プラスを生み出さない行動は、なるべくしないほうがいい。
「最低だ」
社長の左手は、コーヒーカップを持ったままだった。
半分ほどに量が減ったカップを、軽く傾けて、左右に揺らす。
あと少しで液体が外に飛び出しそうになると、今度は反対側へと傾ける。
「あいつに男がいたことも、子供を妊娠していたことも、産んだことも気付かなかった。気付い
たら、あれは、何と言っただろう。多分、あなたの子を妊娠したのに、話す時間がなかったと
か、うまい言い訳でも考えたんだろうな」
自問自答して、ふん、と鼻を鳴らした。
「自分が創った会社を人に譲り、自分は白旗の社長になる。それだけを思い描いてきた。当時
の社長、つまり女房の父もそれでいいと言っていた。いつも、どこへ行くにも付き合わされた。
何一つ文句を言わず、わたしは社長についていったんだ。地位はどんどん上がっていった」
桃子は、社長の話を聞く間、トレーにこぼれ落ちたクッキーの欠片を、かき集めていた。それを
指先に押し付けては、ナプキンの上に乗せていく。
いまは、何かをしていなければ、気が済まなかった。社長の話をただ黙って聞くなど、耐えら
れなかった。
そんな人生、何が面白いのだろう。人間の価値は、地位なのか?名誉なのか?人格とか、性
格の優しさとか、愛する心とか、そういったものが一番じゃないのか。
「やっかみもあった」
社長には、桃子の問いかけは届かない。
「うまく社長の娘に取り入って結婚し、能力もないくせに、いずれは社長になるんだろうとね。
だからわたしは、人一倍勉強をした。営業にも出た。情報を集めるためには、何でもしてきた。
金で物事を解決したこともあるし、女を利用したこともある」
社長の声は、次第に大きくなっていく。
それが心配で、桃子は、周囲を見渡す。
まだ朝。各会社が活気があるのに反比例して、外が静かになる時間帯。
人通りもまばらだし、カフェの中には相変わらず客はほとんどいない。
「すまない」
興奮したことを謝ったのだろうか。
そうだとすれば、まだこの人は冷静な範囲にいる。
桃子は、短く、
「いいえ」
とだけ言い、社長の話を促すかのように、首を傾げて見せた。
「すまない」
社長はもう一度繰り返した。
社長がものすごく小さく見えた。
「今でもそれは変わらない。わたしは、社長という地位を守るためなら、何でもしようと思って
いる。例え、誰かが犠牲になったとしても……」
社長は、鋭い視線を桃子に投げかけた。
桃子は、それを受け止める。怒りに満ちた目で、まっすぐに受け止めた。
「犠牲」
という言葉で、急に樹里のことを思い出したからだった。
樹里の一件に関しては、社長とは無関係かもしれないが、それでも、自身を守るためなら、他
の誰でもがどうなっても良いなどという発言は許されない。
頭にきた。
桃子は、テーブルの下で、拳を強く握っていた。
-第103話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2007/12/14(金) 12:00:00|
笑@会社
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