記念すべき100話目は、社長と桃子の初デート?
なわけありませんが、暖かい日差しの中、二人で楽しむ姿は、親子のよう?!
ここから、秘書室がまた動き始めます。嵐の前のなんとやら。
会社ではいったい何が起こっているのでしょう。
第100話会社の外へ出る。
明るいうちから外へ、しかも仕事ではないとなると、気分は実に晴れやかだ。それが、社長の
私的なお供でなければ、最高だけれど。
人より数日多く休んでいて、そう文句を言ってはバチが当たるだろう。気をつけよう。社長は、
珍しく車に乗らずに、歩いている。出勤時間が過ぎて、だいぶ人通りも落ち着いて、遠くまで
すっきりと見渡せる。それが、また気分を清々しくさせていた。
桃子は、一歩下がって社長の左横を歩いた。
車道から何かが突然飛び入ってきても大丈夫なように、という桃子なりの配慮だ。
数分歩いて、駅と会社のちょうど半分まで来たとき、社長は急に足を止めた。
それは、桃子が以前一人デビューを果たしたカフェだった。
誰もが入りやすく、手ごろな値段で、そこそこの味が楽しめる。そんなところが売りのカフェには、
時々、ものすごく疲れた顔で一人座る中年男性もいる。
血色の悪い顔。きっと酒や煙草がやめられないのだろう。
今にもくっつきそうな瞼。深夜遅くまで働いて眠る時間もないのだろう。
太った体。不規則極まりない生活習慣が定着したのか。
ま、人のことは言えないか。
桃子は、少し贅肉がなくなった体をさする。いいものだ。実にいいものだ。その中年男性に当
てつけるかのように、薄気味悪い笑みを浮かべながらお腹のあたりをさする。
社長は、社長という肩書きがありながら、このような場所にも精通しているようで、桃子が最
初に来たときのように狼狽はしなかった。
どうせ万札しか持っていないのだろうと思っていた財布の中に小銭もあった。当たり前のこと
だが、桃子は妙に感心していた。
桃子の好みなど訪ねることもなく、珈琲を二人分と食べ物をいくつか注文し、席のほうへ歩い
ていってしまう。
日が当たらない、奥の一番端のスペース。
どの会社も仕事が始まったばかりだろう。カフェ内には、遠く離れたところに、さきほどのメタボ
リック気味の中年男性一人と、ネットカフェ難民のような、定置を求めない雰囲気の若者が一人、
テーブルの上に突っ伏しているだけだった。
内緒の話をするには、かっこうの場所ということか。
社長は黙って奥の席へ歩いて、そこが自分の定位置であるかのように我が物顔で座ってい
る。桃子はまだカウンター近くに立っていた。一応、秘書なので、トレーを受け取って持ってい
くのは自分の役目。そんな風に思っていた。
店員が、
「お席までお持ちしますので」
と、ニコヤカに笑いかけてきても、桃子は自分がまるでSPにでもなったかのように、渋い顔を
返すだけだった。
トレーには、なんとかサンドとか、クッキーのようなもの、小さいカップに入ったサラダなどが珈
琲とともに、ぎっしりと乗っていた。
受け取ってから社長のほうを見る。これ、誰が食べるんだい?
桃子は、苦笑いだった。
社長は、表情を変えずに何事もなかったかのようにうなづくだけだ。
席へ着くと、社長は珈琲に手を出した。
それから、一言、
「さぁ、食べなさい。きみは、これくらいササッと食べれるのだろう?」
と、平然と言ってのけた。
「あ…あた…」
あたしの分ですか?
と聞きたいのに、言葉に詰まる。
えぇい、遠慮するな、あたし。社長が良いって言ってんだ。食え、食うんだ。
それと同時に湧き上がる疑問。
あたしが、たくさん食べるから、だから安いチェーンの珈琲ショップに連れてきたのかい?
社長の顔をまじまじと眺める。目が合う。
いや、いけない。目を合わせては。変な気でも起こされたらたまらない。
一人ぶつぶつとつぶやいては、唸ったりしている姿は、さぞ滑稽だったに違いない。
社長は、大きな声で笑い出す始末だった。
「きみは面白い子だよ」
社長は笑みを浮かべながら、クッキーを一つ手に持った。
「甘いものが好きでね。特に、最近は。コレステロールを気にしなければいけないのだが、気に
病むことが多いと、つい食に走ってしまう」
なんだかんだと言い訳をつけて甘いものを食べている姿は、桃子には微笑ましかった。
いつもきびきびしていて、隙のない雰囲気の社長が、急に身近に感じられた。
「社長など、なるものではないよ」
一つ小さくついたため息を、消して上げられたらいいのに。
いつの間にか、桃子はそう思うようになっていった。
-第101話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2007/12/10(月) 12:00:00|
笑@会社
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