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女園秘書室-第98話-


有砂と阿東くんのコンビ、いったい何を考えていることやら。
そして、そこにあの純粋そうな未来ちゃんが入って、トリオに?!
渚さんは大丈夫なのか?
樹里は?
謎多き90話台ももうすぐ終了。


第98話

急いで秘書室に戻ると、人っ子一人いなかった。もぬけの殻。まさにそんな例えが相応しい状
況だ。誰か一人残っていてもおかしくはないはずだと渚は言った。
どこへ行ってしまったのだろう。
「さっきの電話、誰かからの呼び出しだったんでしょ?」
桃子は、タメ口ではあるが、丁寧な口調で聞いていた。
渚は上の空の様子で、落ち着きがない。
「あのさぁ」
桃子は、彼女の腕を握り、軽く揺すってみる。ようやく我に返ったかのように、桃子の顔を見
た。視線がぶつかる。なんて顔をしているのだろう。これまでのピシッとした秘書の面影はない。
「駄目になっちゃう」
渚は、そう言うと、へなへなとその場にしゃがみこんだ。

くそ。いまいましい職場だ。
桃子は、廊下に出て、壁を蹴り上げた。
ミシッ。スーツのスカートの一部が短い悲鳴を上げたが、そんなことはどうでもよかった。
何も見えてこない。何も理解できない。有砂と阿東が手を組み、会社を乗っ取ろうとしているこ
とは分かった。だから、それをどうしようというのだ。止めるのか。それとも黙って見ているのか。
もう一度社長のところへ行ってみるか。
腕組みをして、エレベーターのほうへ歩き始める。
エレベーターが都合よくあがってきて、目の前で止まった。
嫌な予感。
降りてきたのは、案の定有砂と阿東、そして樹里の後釜に座った榛原未来。
「どこでサボっていたんです?」
有砂たちは、エレベーター前に立ちふさがった。扉は閉まり、階下で呼び出しがあったのか、
箱はカタカタと音を立てて、下の階へ行ってしまった。
「社長室さ」
桃子は平然と答えた。
渚と会うまでは社長室にいたのだ。それで問題はない。きっとこの三人は社長室へは行って
いない。エレベーターは下から上がってきた。だから、自分が社長室にいたと言っても、この
三人には本当かどうか分かるまい。一つの賭けだった。

案の定、有砂は何も追求してこなかった。それどころか、桃子が単独社長室にいたことを、
「仕事熱心だこと」
と、好意的に受け取ってくれた。
「それより、沢渡さんがどこへ行ったかご存知?」
角度にして十度ほど。ほんの少し首を左に傾けて、有砂は桃子に一歩近づいてくる。
桃子は、冷静に慌てる様子もなく、「知らないね」と答えた。
「あたしは、あたしの仕事だけで精一杯なんだ。人の世話まで焼ける暇はないよ」
いらいらしているのが、酷く態度に出てしまった。
ついむかしの自分の喋り方に戻って、ハッとする。
目の前の三人は、特に驚いた様子はない。そういう人だと知っているからだろう。特に、未来
などは、二人の後ろに隠れて、咳払いで笑いをごまかしている様子だ。
あいつは…。
桃子は、まだ一週間も経っていない先週半ばの出来事を思い出していた。
秘書室の隅っこでおびえるように座っていた未来。
桃子がトイレで苦しんでいたところを助けに来て、励ましてくれた。
会社の医務室でも面倒を見てくれた。
縁起でもなかったが、死んだ姉に似ていると慕ってくれた。
でも、有砂や樹里が医務室に入ってくると、借りてきた猫のように大人しくなって、俯き加減に
なった。
それが、いまはどうだろう。
有砂と一緒に並んで歩いても、どうどうとしている。副社長の秘書になるということ。地位が上
がるということは、人に、それほどまでにも自信を持たせてくれるものなのであろうか。

かつて、自分が社長秘書になってほしいと言われた日のことを思い出した。
「このあたしが、社長秘書?」
ちょっと嘘のようで本当の話に、笑みがこぼれたのは間違いない。自分が偉い人物になった
気さえしていた。
同じか。
小声でそう言っても、誰も気にも留めなかった。
「その口の利き方は、直したほうがいいな」
阿東が、メガネの端を持ち上げながら、鋭い視線を桃子に送る。
そして、桃子に触れるか触れないかくらいの僅かな空間を刺すように横切って、秘書室のほう
へ歩き出した。
「社長から指示を仰いでおいて」
そう言って、有砂が阿東の後を追う。
未来には、どんな顔をしたものだろう。
「す、すみません。桃子さん」
桃子の目が怖かったのか、未来は、何をしたわけではないのに、ただひたすら謝りながら、そ
の場を立ち去った。

-第99話へ続く-

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2007/12/06(木) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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