いよいよ、登場人物たちが闇でどんな動きを見せていたのか、明らかになります。
少しずつですが…まだ先は長いですが…どうかお付き合いください♪
第97話「仲間じゃ、ないのね?」
渚は強い語気で確認を迫ってくる。
仲間であるはずがない。見ただけで分かるだろうに。
桃子は立ち上がり、渚と視線を同じにした。
「あたしが、あいつらの仲間だとしたら何が出来ると思う?」
「出来ないわね」
そういう答えを待っていたのに、間髪を入れず、あまりにもはっきりと言われ、苦笑いするしか
なかった。
珈琲から湯気が立ち上り、まだ熱いだろうに、渚は半分ほどその中身を飲み干す。
桃子は、少し口をつけてみても熱くて喉を通すことはできない。口をカップにつけるたびに、上
下の唇をパタパタとつけたり離したりを繰り返していた。
「実はね」
渚は、珈琲カップを両手で包むように持ちながら、なぜか親指だけをしきりにカップの側面で
動かしていた。それはまるで、その箇所が汚れていているので、きれいにするためにこすって
いるかのように見えた。
渚は、かなり前から、有砂と樹里の関係に疑問を持っていた。大学からの同級生で同期だと
したら、かなり親しい間柄だろうに、樹里はいつも有砂の言うとおりに動き、反抗することはな
かった。
自分が秘書室にやってくる前のことは定かではないが、あらかた学生時代から上下関係がで
きていたのだろう。渚は、そう推測していた。
渚は、ある程度のことは分かっているようで、それでも一つ一つの事実が、どのようにつなが
っているかという点においては、さっぱり理解していなかった。
中でも桃子が驚いたのが、樹里と阿東が不倫をしていることや、有砂と社長がいい仲であるこ
とを見抜いていたことだった。
「見てりゃ、分かるわ」
渚は笑う。
「それにね、室長は、樹里さんと不倫をしているのをわざと知らせたいような雰囲気があった
の。何かあったときに、簡単にやめさせられる理由をとってつけていた節があるわ」
どこからか、煙草の匂いが、しのびよってきて、桃子はむせた。
「あぁ、ごめんね。ごめんね」
カウンターの奥から、ジッとこちらの様子を伺っていた渚の母という女と目が合う。
手元には、細長い煙草。まだ半分も吸わないうちに、桃子のせきによって火が消されることに
なった。
「でも、そんなこと危険だろ?どっちかっていうと、阿東のほうが辞めさせられる原因が大きい
だろ。結婚して、子供もいる。それに…」
桃子は、何とか阿東の責任にしたかった。子供というキーワード。自分が口に出したにも関わ
らず、不覚にも涙が滲んできた。
体がジンジンと熱くなる。テーブルの下の手は、やはり握りこぶしだ。
桃子がそこまで熱くなる理由を、渚は知らない。ただ、そわそわとしている桃子に、見入りな
がら話を続ける。
「知らないだろうけど。いや、っていうか、これは極秘。多分知っている人はごくわずか。室長
は、現社長がどこぞやの愛人に産ませた子供なんだ」
口元に持っていった珈琲が、目の前ではじけ飛び、一つずつ水滴が宙に浮くのを見た。それ
はまるでテレビのスローモーションのような映像だった。
テーブルの幅が広かったお陰で、珈琲は渚まで飛ばなかった。もし顔にでも当たっていれば、
熱くてやけどをしかねなかった。
なぜそのようなことを知っているんだ?
桃子の考えを読み取ったのか、渚は言う。
「副社長。樹里さんのほうじゃなくて、わたしがついているほうの」
そう言われても、桃子には分からなかった。思い出せる顔ではなかったのだ。
「思い出せないでしょ」
見透かしたように、渚は笑った。
「そうなのよ。地味なのよ。地味で、目立たない。でも、上には従順で仕事は真面目。私生活
も、まったく面白みを感じないほど真面目一直線。そんな副社長が」
言い終わらないうちに、邪魔が入った。
渚の携帯電話が静かに音を立てる。
「これ以上は、まずいわ」
戻りましょう。渚に続けと言わんばかりに、桃子も立ち上がった。店を出るとき、桃子だけは渚
の母に頭を下げた。
彼女は、事情を知ってか知らずか、胸の前でファイティングポーズを取って、これから戦う戦士
のような格好をし、桃子に向かって大きくうなづいた。
桃子も、同じようなポーズを取ってみせた。ただ一つ違ったのは、右手の人差し指と中指に挟
まれた煙草。
きっと、吸うのを我慢していたのだろう。
「可愛いおばさんじゃないか」
桃子は、喫茶店を勢いよく飛び出して、渚を追った。
-第98話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2007/12/04(火) 12:00:00|
笑@会社
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