社長室では、まさかの展開?
そして、そこをあとにすると、さらに驚きが?!
人生は思いもしない方向に進んでいくことがほとんどである。
それでは95話です♪
第95話社長は桃子を奥の部屋へと案内してくれた。
そこにベッドなどが置いてあったらどうしようと、変な想像を頭の中に繰り返していたが、想像
だけで終わった。
三人ほどが腰掛けられるゆったりしたソファが、二つ向かい合って横たわっていた。
いや、ベッドじゃなくても、このソファで。
桃子は、瞬きを繰り返したり、首を左右に振って、何とかいらぬ想像を払拭しようとした。
「どうだ。秘書の仕事は」
社長は座ろうとしなかった。後ろに手を組み、ガラス張りの大きな窓の向こうの景色を眺めている。
社長から十歩ほど離れたところに立ち、桃子は薄ら笑いを浮かべていた。
どうだ?だって?
社長が一番よく分かっているのではないかと思った。
聞いてくれるな。仲が良ければ、そう言ってやるところだが、社長相手にそんなわけにもいかない。
「社長の判断にお任せします」
ふいに口をついた言葉だった。
怒られるかもしれない。そう思った桃子の顔は、緊張で強張っていた。ちょっとしたことでも、
誰でもクビにしかねない。
手に汗が滲んできた。
「では、まだまだだね」
社長が、窓の外から部屋の内側へ視線を移した。
その顔は怒ってはいない。むしろ面白がっているようにさえ見えた。
桃子はそれ以降何も聞いてこない社長に対して、どう話を切り出したらいいものか考え込んでいた。
樹里が突然副社長秘書を辞めさせられたこと。それ以外は、聞いてはみたいけれど、勇気が
出ない。有砂と不倫中だろ?などと問うてみたい願望はあるが、それは願望だけで抑えてお
いたほうが良いだろう。
社長も、何を言うでもなく、桃子を眺めていた。
二人は長いこと見つめあった。
視線をそらしたほうが負け。動物界がそうであるかのように、二人は次第に息遣いも荒くなり、
目つきも険しくなってきていた。
「何やってんだ、あたしは」
そうは思っていたけれど、本能が引き下がることを要求しないのだから仕方ない。
このままいったら、いつかどちらかが、吠えそうな空気になってくる。
社長は、それほど大きな体ではないが、鍛えているのであろう。少し腕などをまくると、筋肉
が美しかった。
「きみは、なんだ?」
とうとう社長が声を出した。
桃子は、なぜだか勝ったような気がしてならなかった。
「おもしろい奴だ。おい、今夜付き合え」
社長が、右手の親指と人差し指でわっかを作り、それを口元に寄せて、首を後ろに倒した。
「飲む」
ということだろう。
そのあとは…そのあとはないよな。
ない。そう願いたいはずなのに、桃子の頭の中には、先ほど見た逞しい腕が浮かんでは消えていた。
へなへなと部屋を出る。
社長室を出た桃子は、脱力感でいっぱいだった。
いったい何をしにいったのかも忘れたし、変な想像も掻き立てられてしまった。
何の深い意味もないかもしれないけれど、男女の関係になることを想像してしまう。
いや、ごめんだ。飲むくらいはいいとして、そのあとの付き合いは、断るべきだ。
誘われてもいないのに、桃子はどのように断ろうと必死になって考えた。
エレベーターの前でしばらく立ち止まっていると、非常扉の向こう側から、カツーン、カツーンと
響く足音がする。
あいつだ。有砂だ。ちょうどエレベーターがあがってきた。ドアが開く。桃子は、そそくさとその
ボックス型の不安定な乗り物に飛び乗った。
「閉」のボタンを連打する。
いま社長のところへ来ていたことを知られたくなかった。
思い通りにドアは閉じてくれない。焦れば焦るほど、指先がすべる。
指先をそっと眺めると、桃子が押していたのは、「開」のボタンだった。
それを連打していたわけだから、扉が閉まるはずはなかった。
ようやく、ゆっくりと閉まりかけたとき、空気が止まった。
目線を下に向けていた桃子が目にしたのは、黒の磨かれた靴。閉じかけた扉は、障害物を感じて、
再び左右へ分かれていく。
「あ…」
それは、予想もしない人物だった。
-第96話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2007/11/30(金) 12:00:00|
笑@会社
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