笑@会社

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女園秘書室-第91話-


久しぶりの我が家。
えぇ、現実的にはたったの数日なのですが、小説上ではだいぶご無沙汰の場所です。
そして、いよいよ明日から仕事再開!の桃子の体に異変が??
看病疲れ?それとも…?な、第91話です♪


第91話

一日は入院したほうがいいと言われたにもかかわらず、樹里は帰るという意思を曲げなかった。
進行流産。
桃子も救急車の中で聴いた言葉。
樹里は自宅にいた時点で、もうすでに流産の状態になっていた。そうなると、わずか数分のう
ちには、赤ちゃんが流れ出てしまうということだった。それを食い止める術はないのだという。
そして、診察の結果、完全流産といい、赤ちゃんの組織などがすべて子宮内から流れ出てし
まった。
組織が体内に残っている場合は、手術をするようだったが、完全流産と診断されたので処置
をする必要はなかった。それは、つい何時間前までは確かにあった樹里の体の中にいた命が、
失われたということだった。
薬だけが投与される結果となった。

樹里は自宅に帰ってから、ベッドに横になっていた。
「何日か、休ませてください。必ず痛みを消化して戻りますから。有砂さんには自分で連絡し
ておきます」
樹里に会社を休まれると、桃子としては気が気ではなかったが、今の状態で出て来いなどと
いうことはできない。
「ゆっくりしてな」
そう言ったあと、もぞもぞと口を動かした。
変なこと考えるんじゃねーぞ。

桃子は、ようやく自分のアパートに戻ってきた。
日曜日の夕方は、寂しい気持ちが募る瞬間だ。
それは、また一週間がやってきて、仕事に追われるという現実が迫っているという理由だけで
はない。
幼いころ、日曜日の夕方になると、決まって家族で近所のスーパーへ出かけた。
西の方角に夕陽が落ちていき、雲が赤く染め上げられている。その色は、グラデーションになって
いて、桃子の頭上あたりの雲は、いつもほんのりピンク色をしていた。
まるでお祭りで売っているわたがしのようで、気分が高揚したのを覚えている。
そんな風にして、子供のころの記憶が瞬時によみがえると、懐かしい気持ちが湧き上がると
同時に、あのころの無邪気だった自分にはもう二度と戻れないのだと、悲しい気持ちが胸を支
配する。

「年を取ったものだ」
ガス台にヤカンをかける。
ジジジジ、ボッ。
桃子の古いアパートでは、何か一つ行動を起こすたびに大げさに音が鳴る。
長い間世話になっているこのアパートも、だいぶ傷み始めていた。
お湯を沸かしている間、桃子は近くの柱をそっと撫でた。
樹里の豪邸に憧れないわけがない。
けれど、分相応という言葉は分かっているつもりだ。
そして、
「あたしには、高級なんて似合わないさ」
やがて、ヤカンがけたたましい音を立てるまで、桃子は部屋のあちこちを撫でて歩いた。

ふかふかしない布団。
薄っぺらな割りに痛くないのは、自分の身に付いた脂肪が厚いからだろう。
桃子はいつもそうするように、一気に頭を後ろに倒し、枕の上に着地させる。
「いたっ」
背骨を挟んで両側に痛みを感じて、起き上がる。
なんだっていうんだ?
背中を触る。ん?
いままでにないものが張り出している感触。布団の上で上半身裸になると、鏡の前に立つ。背中を向ける。特に変わった様子はない。
もう一度、鏡の中をのぞいたまま、先ほど触った部分に手を添える。
骨?間違いなく、骨が出っ張っていた。
何の病気だ?おそるおそる、手で撫でる。
あの秘書室に勤務してから、ロクなことがない。
樹里も、あの秘書室に勤務しなければ、今日のようなことにはならなかった。

「これが漫画なら、今頃あたしの額には、何本も縦線が入っているんだろうな」
桃子は、額に冷や汗を浮かべて、何度も自分の大きな背中を眺めていた。

その出っ張った骨。
それが、肩甲骨であること。
そして、最近の過労働で体が引き締まり、いままで脂肪に覆われていたそれが、突然出てき
た異物だと感じたこと。普通の体系であれば、肩甲骨は普通に見えること。
そのどれもを彼女はまだ知る由もなかった。

-第92話へ続く-

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2007/11/22(木) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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