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女園秘書室-第90話-


桃子&樹里が絆を確かめ合いました。
きっと阿東なんかより、強く分かり合えるでしょう。
負けるな、樹里!な第90話です♪


第90話

とても正常な状態でいられない。
体を痛めていない桃子でも、そう感じていた。

樹里は数分の間、歯を食いしばり、その後下唇をギュッと噛んでいた。
そして、次の瞬間には、ベッドから体を起こした。
「帰りますよ、桃子さん」
それは、とても簡単に言ったように聞こえた。
「樹里さん、まだ動かないほうが」
亜樹の制止も聞かず、樹里はベッドの上から降りる。
苦痛に顔を歪めたのは一瞬で、一度お腹に手をやると、帰り支度を始めた。
きっと、お腹に手を当てるのは、妊娠してからは習慣になっていたに違いない。
もういなくなったと分かっていても、何かを確かめるように手が自然と動く。
悲しい光景だった。

「あーあ」
亜樹が、支払い処理のために部屋を出て行くと、樹里はベッドの上に寝転んだ。
何かを失敗したときに子供がつぶやくような言葉で、さして重みがないように聞こえた。
あーあってなんだよ。
口に出して言うことはしなかった。
思ったことや考えたこと、口にしないほうがいいこともあるということを、最近桃子は覚えた。
それは、言いたいことを我慢するということではない。
自分の主観だけで発言してもいいことはない。相手にもいろんな感情が渦巻いていて、それ
ぞれの環境があって、想うことがあって、動いているのだ。それを知らないままに、何かを言う
ということが、軽率な行為だと思うようになってきていた。
何から話していいか、桃子は戸惑っていた。

「やっぱり駄目なものは駄目。なんですね、桃子さん」
頭の下で腕を組み、天井の一点を見つめている。
膝までベッドの上に乗せ、膝から下は、ブランブランとベッドからぶら下げている。
はたから見れば、何の悩みもなく、のん気な雰囲気だろう。

駄目なことは駄目。
樹里は、頭では分かっているのだ。
自分がいけない恋愛をしているということ。
好きになってしまったら仕方ない。そう分かっていても、止まらない。
そんなことは誰にでも起こりうることだ。
その感情を、理性で抑えることができなかったのは、樹里の心が弱っていたからではないだろうか。

普通の家庭。
普通というのが、誰から見て普通かと言われれば、上手く説明できないが、両親がいて、家族が
仲良し。そういう家庭に生まれていれば、樹里も不倫などしなかったかもしれない。小さいころ
から満たされなかった思いを、今になって阿東に解消してもらっているのだろう。

女には男。男には女が必要だ。
でも、それは本当に必要とする異性でなければ意味がない。
阿東は、何かあったとき、今回のように女の想いに応えることはできない。
同姓同士のほうがよほど力になれることもあるのだ。

桃子は、樹里の横に寝転んだ。
「なぁ、上手く言えないけど」
樹里と同じように、足をプラプラさせる。
ベッドがきしんで揺れた。
「ベッドが壊れますよ」
樹里が、秘書室にいるときと同じような調子で、嫌味っぽく笑う。
「うるせ」
桃子は一言返した。
そして、樹里が頭の後ろで組んでいる右手を無理やり引っ張り、自分の左手で包むように握る。
「あたしが守ってやる」
樹里が頭を持ち上げ、左手をゆっくり顔の上に乗せるのが目に入った。
「何にも言うな」
泣いているのだろう。肩が揺れて、振動が伝わってくる。つないだ手が熱かった。それでも、
何かを確認するように、二人はいっそう強く手を握ったのだった。

-第91話へ続く-

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2007/11/20(火) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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