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女園秘書室-第87話-


真実はいったいどこにあるのでしょう。
桃子、悩みに悩みます。
そして…さよなら、樹里?!なのでしょうか?!
第87話です。


第87話

時間は、ゆっくりと流れているように思えて、実際は、ものすごいスピードで過ぎ去っていた
というときと、その逆の場合がある。
いまの桃子には、実際にかなりのスピードで過ぎ去っていた。
めまぐるしく変化する状況に対応するのは、若いころのように簡単にはいかない。
次々に明かされる秘書室の人間関係や樹里自身のこと。桃子は、何から考えたら良いか分
からなくなっていた。

「わたしは産むつもりでいます」
樹里は、自分の話を最後にそう締めくくった。
それほど強い決意を持っているのに、どうして口を挟むことができようか。
肯定も否定もせずに、ただ黙ることしかできなかった。
しばらく、会話がない状態が続く。
樹里がそのまま黙って部屋を出て行って、もう一時間ほど経とうとしている。
お風呂に入ったのか、部屋で寝てしまったのか分からない。

お腹に赤ちゃんがいる。
産もうと思っている。
その割には、体を鍛えるなどとハードなトレーニングをしたり、昨晩など浴びるように酒を呑んだ。
自分は妊婦になったことはないが、樹里のそれらの行動は、決してお腹をいたわる行動では
ないように思えた。
あいつの言っていることは、本当なのだろうか。
ふとそんな疑問が持ち上がり、頭が混乱する。
真っ向から信じていないわけではない。自分がパソコン変換事件の犯人であることを明かした
こともあり、嘘をついているとはいいがたい。
嘘をつくものは、次から次に嘘を重ね、次第にはどこかでちぐはぐな話になっていくことが多いが、
樹里にそれは見られなかった。

桃子は、樹里の精神状態を危惧していた。
もう一度ベランダに出ると、手すりにつかまり、隣の部屋の様子を外から伺う。
これが、ワンルームのマンションであれば、気付かれれば隣の住人に通報されていることだろう。

お腹の子供は産ませたくない。
桃子はそう考えていた。
せっかく授かった命といえば、その通りだが、子供を産むことで、樹里の精神状態が今より
酷くなることを恐れていた。
樹里が、突然笑ったり、涙を流したり、感情の起伏が激しいところが、気がかりだった。
秘書室で自分を殺しすぎている分、そうやって自分を解放しているのだろうが、子供が生ま
れたら、もっと自分を殺さなければならなくなる。
阿東が面倒を見てくれるとも思えない。仕事中に病院へ連れて行き、子供を堕ろすように言った
男だ。
樹里の父親。
彼はどう思うだろう。
樹里との仲は復縁したとはいえ、医者という身。忙しさは変わらないだろうし、面倒を見てくれる
時間もないかもしれない。
樹里は仕事を辞めざる終えないだろう。
それに、産むと決断し、それを阿東が知れば、樹里に対して何らかの悪影響を与えるアクション
を起こしてこないとも限らない。
そう、あの有砂と共に。

トントン。
風か?
一体何時なんだ?
ベッドの脇のテーブルランプのスイッチを入れる。
時計は、日付が変わったばかりの0時だった。
ずいぶん早く寝てしまったものだ。
桃子は、ベッドから起き上がる。
考え事をしている間に、眠りについてしまったようだが、自分がいつ電気を消したかも記憶に
なかった。
「はい」
目をこすって、顔を平手で二、三度叩く。
スッキリというわけにはいかないが、目が覚めてくる。
扉の向こうから返事はない。
風邪のいたずらか。
もう一度、
「はい」
返事をして、扉をゆっくり開ける。

熊?
いや、熊のように体の大きい男。
樹里の父親だった。
「樹里がどこへ行ったか知りませんか?」

-第88話へ続く-

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2007/11/14(水) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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