居心地のいいのは、福井邸?それとも福井邸の玄関ほどの広さしかない
自分のアパート?!
結局樹里の元へ戻ってきた桃子。
最後に2人は何を話すのでしょうか?
怪しい雰囲気の亜樹からも目が離せません!!
第81話外から見た福井邸は、暖かい空気に包まれているように見えた。
それは、桃子が、樹里と父親の和解を知っているからだろうか。
邸宅の窓という窓すべてから、温もりのある灯りが見えるからだろうか。
車が近づくと、大きな門が、庭の内側へ開く。
またいずれ遊びに来ようと思っていた家へ、一時間も経たないうちに戻ってきた。
玄関を開けて出迎えてくれた樹里は、笑顔だった。それも、作り笑いではない心からの笑顔。
「桃子さん、すみません」
チロっと舌を出す。それは、二十年位前のアイドルがしていたような仕草だった。
「古いぞ、それ。かわいくねぇ」
樹里は、それを無視して笑い続けている。
樹里自体が変わった。温かくなった。
発している雰囲気そのものが変わって、周囲も変わる。
見える景色まで違ってくる。
玄関に入る。
男物の靴は、消えていた。
桃子は、背伸びをして長い廊下の突き当りまで見回す。
「父は病院に戻りました。時間がないのは、承知していましたから平気です。すぐ病院に行く
ことは分かっていたのですが……」
一つ咳払いして、樹里は続ける。
「ちょっとだけ父と二人の時間をと思っていたら、桃子さんってば、気を遣って帰ってしまうんです
もの。驚きました。特に用事がなければ、今日も泊まっていってくださらないかしら」
疑問系の言葉と同時に、首を右側に少し傾ける。
樹里の言うとおり、桃子は樹里と父親の二人の時間を大切にしたいと思って、自宅に帰ろうとした。
遠慮することがなければ、この家のほうが居心地いいに決まっている。
「あいよ」
調子に乗って、手を差し出す桃子。
「バイバイ」と手を振るような格好に、樹里が手を合わせる。
パチンと軽い音が、静かな廊下に響く。
それが合図であるかのように、桃子は再び靴を脱ぎ、家に上がりこんだ。
桃子は、樹里の部屋にいた。亜樹もいる。
三人がベッドの上に乗り、胡坐をかいても余裕な樹里のベッドの上。
「こんな場所でなんですが、桃子さん」
樹里は姿勢をただす。正座をし、背筋を伸ばして、頭を下げる。
「ありがとうございました。桃子さんのおかげです。わたしも、父も、素直になれた」
膝の前に三つ指をついている姿は、まるで何かのドラマで見た女性の嫁に行くポーズだ。
「絶対和解なんてしないって思ってたのに、なんて簡単に仲良く慣れたのでしょうね」
樹里が嬉しそうに笑うのは、桃子や亜樹の気持ちも嬉しくさせた。
「家族ですもの。家族が分かり合えなければ、他人なんてもっと分かりませんわ」
亜樹がもっともらしく、拳を握り締めて言う。
力強く、大きく見開かれた目。
それが、どこか遠くを見ているような、焦点の合わない目になってきて、桃子は首を傾げる。
いつか見た目だ。桃子は、もう一度亜樹の顔を見て、ある人を思い出した。
それは、樹里の父親だった。
診察を受けたときに間近で見た、どこか切なく悲しい目。
笑ってはいるけれど、どこか不安で、バランスが取れていない雰囲気。
同じことを亜樹にも感じていた。
「あたしの周りは、病んでる奴ばっかりだな」
もう一度亜樹を盗み見ると、先ほどとは異なり、もう明るい笑顔に戻って、樹里と一緒にはしゃいで
いる。
嘘だ。たぶん、あの笑顔は。
「お前ら、まとめて面倒見てやるぞ」
桃子は、ベッドの上に立ち上がり、ふわっと一瞬浮いたあと、そのままの勢いで二人に抱き
ついていた。
そう、まるで、二人を襲って押し倒したかのようだった。
-第82話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2007/11/02(金) 12:00:00|
笑@会社
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