さて、福井家お食事会がスタートします。
いつも一人だった樹里。突然の四人に誰もがどうしたらいいのやら、不思議な気持ちで
埋め尽くされています。
口火を切るのは誰??そして、どんな話題になるの?それは盛り上がるの??
会話が気になる(食事も気になる)第77話。
第77話テーブルには、亜樹と樹里が張り切って作ったご馳走が並んでいる。それを四人で囲んだ。
亜樹は遠慮すると申し出ていたが、誰もが亜樹の同席を希望していた。
無言のまま席に着いた四人。一番最初に口を開いたのは、意外にも樹里だった。
「お父様、これ、覚えていてくださったんですね」
笑顔で父親を見つめる樹里。覚えていてくれたということが、何よりも嬉しかったのだろう。
このドンペリ一本で、これまでのわだかまりが解けるのであれば、どうしてもっと早く気付かな
かったのだろうと思うに違いない。
「あぁ、うん」
樹里の父は、恥ずかしいのか、軽くうなづくとそっぽを向いてしまった。
「だいぶ前だ」
床を伝って、涼やかな風が足元を撫でていく。ひんやりとした冷たさを感じて、桃子は軽く足を
持ち上げた。
「さ、話はゆっくりできますよ。まずは樹里さん。それを開けましょう」
亜樹が音頭を取り、食事会はスタートした。
亜樹は、ときどき立ち上がってキッチンへ向かう。空いた皿を片付けたり、温かい料理を出したり、
ゆっくりしている暇はない。
桃子は、手伝いを買って出て、樹里と父親が二人きりで座っていることもあった。
最初は、救いを求めるかのような目で桃子に視線を送ってきた樹里も、次第に慣れてきたようで、
いつしか二人は敬語も使うことなく、話しをするようになっていた。
樹里が敬語を使わずに喋るところを、桃子は初めて聞いた。
普通の女の子とまったく変わらない姿がそこにはあった。
松坂牛の軟らかいステーキを充分お腹に収め、あとはデザートを残すのみとなった。
亜樹が珈琲を淹れている間に、桃子はテーブルの上を片付けていく。
「樹里、お前に謝らなければいけないね」
桃子がちょうどテーブルクロスを掃除し終えたときだった。
父親が口を開く。
「藍子、お前の母親だが、彼女は、わたしと結婚する前に結婚していたんだ。前の夫が酷い
暴力を振るったようでね。わたしの病院へやってきた。体中に酷いあざがあってね、見るに耐
えない体をしていた。結局それは、前の夫の暴力ではなかったのだが、わたしたちはそうやって
知り合った」
珈琲を淹れてきた亜樹は、聞いてはいけないと思ったのか、身を翻してキッチンへ戻っていく。
桃子は、立ちすくんでいたが、何を思ったのか、二人と同じテーブルへついた。
父親は一瞬、ギョッとした表情を見せたが、樹里は桃子を見つめ、無言でうなづいた。
「体が癒えても、彼女は時々わたしのところへやってきた。そのうち、お互いに好きになって、
結婚しようと決めた。そしてお前が生まれたんだよ」
樹里は、どういうわけか、顔を歪めた。
それとは対照的に、桃子は、心が温まるのを覚えた。
両親が、樹里を身ごもったころは幸せだったこと。それは、とても大きなことだ。
仕方なくできてしまった子ではないのだから。
なのに、樹里の浮かない顔はなぜだろう。桃子は、眉間に皴を寄せて一人考える。
一人で悩んだり、考えたりするときは、たいていロクな結論が出てこない。結局桃子は次の父親の
言葉を待った。
「お前が生まれてからのことだが。前の夫という人が現れてね。藍子に会わせてほしいと言った。
わたしは冗談じゃないと怒鳴ってやったんだ。暴力を振るう男に、藍子は渡さないと。するとね……」
樹里の父親の話は長く、辛いものだった。
第三者の自分が聞いても辛いのだから、樹里はもっと深い悲しみを背負ったことだろう。
いつもは能天気な桃子も、そんな風に心を傷めていた。
樹里の母親の体のあざは、自分でつけたものだった。精神が不安定だった彼女は、精神の安定を
図るため、自分の体を傷つけていた。
それが分かっていて、自分は医者だからこそ一緒にいて治してあげたい。そんな樹里の父の
思いをあざ笑うかのように、元夫と名乗る人物は話し始めた。
「彼女は、いずれあなたの元も去ることになるよ。お金を持ってね。彼女は、寂しがりやでね。
自分を傷つけることで誰かに相手にしてもらおうとしたり、お金を使うことによって精神を満たして
いるんだ。そして、それも限界に来ると、他の男にすがる。そんな女なんだよ。わたしはずっと
藍子を探していた。お金を返してもらうためにね。わたしは会社を経営していたが、それほど
余裕のある暮らしをしていたわけじゃない。なのにあの女は勝手に勘違いして、お金を使いま
くったんだ」
最初は紳士的な態度に見えたその元夫だったが、話が進むに連れて感情を抑えることができ
なくなってきたようだった。
-第78話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2007/10/25(木) 12:00:00|
笑@会社
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